医用画像情報学会賞

(1997年に名称変更,それ以前は特別功績賞)

 2006年  小寺吉衞
 2003年  金森仁志
 1998年  竹中栄一,長谷川 伸
 1997年  内田 勝
 1992年  竹中栄一
 1986年  高橋信次,立入  弘


投稿者 lee : 2005年06月18日 13:40

功績賞

              
 2015年  杜下淳次
 2012年  宮地利明
 2009年  佐井篤儀
 2007年  小島克之,中森伸行
 2006年  畑川政勝
 2003年  稲本一夫,滝沢正臣,松井美楯
 2002年  山田正良
 2001年  奥村泰彦,山田英彦
 2000年  丹羽克味
 1999年  樋口清伯
 1998年  田中俊夫
 1997年  津田元久,速水昭宗
 1992年  磯部  寛
 1991年  佐柳和男,佐佐木常雄

投稿者 lee : 2005年06月18日 13:34

内田論文賞

受賞年 受賞者 巻,号,頁
論文名
2015 Eiichi SATO,
Yuich SATO,
Satoshi YAMAGUCHI,
Yasuyuki ODA,
Osahiko HAGIWARA,
Hiroshi MATSUKIYO,
Toshiyuki ENOMOTO,
Manabu WATANABE,
Shinya KUSACHI
第31巻2号35-40頁 Image‐quality improvement in pileup‐less cadmium‐telluride X‐ray computed tomography using a frequency‐voltage converter and its application to iodine imaging
2014 鎌倉 快之, 井上 雄紀,
メディ ヌリ シラジ
第30巻4号95-100頁 R-centipedeモデルを用いたトモグラフィー電子顕微鏡像からの輪郭抽出の高速化手法
2013 林 裕晃, 西原 貞光,
谷内 翔, 神谷 尚武
第29巻1号7-11頁 輝尽性蛍光体プレートを用いて取得したX線画像上の黒点発生の解明に向けたモンテカルロシミュレーション ~原子力発電所事故で飛散した核分裂収率の大きい放射性同位元素の影響~
2012 山下 泰生, 有村 秀孝,
徳永 千晶, 桑水流 純平,
馬込 大貴,中村 泰彦,
豊福 不可依
第28巻3号72-78頁 MR脳血流マップ画像を用いたアルツハイマー病の鑑別支援システムの開発
2011 早川吉彦,山下拓慶,
大粒来孝,妙瀬田泰隆,
佐川盛久,近藤篤,
辻由美子,本田明
第27巻3号50-54頁 近赤外線イメージングによる皮下異物の検出実験
2010 寺部 充昭, 五味 勉,
岡本 博之, 島田 秀樹,
宮地 利明, 越田 吉郎
第26巻2号39-45頁 干渉性散乱CTの基礎的なコントラスト特性の評価
2009 市川 勝弘, 原孝則,
丹羽伸次, 山口功,
大橋一也
第25巻2号29-34頁 CT画像におけるノイズパワースペクトル算出方法の比較評価
2008 小倉敏裕,五十嵐均,
下村洋之助,平野邦弘,
白石明久,根岸徹,
長島宏幸,立川智弘,
西村宜子,河野敦
第24巻2号72-78頁 X線CT画像を用いた前立腺癌症例の腹腔内脂肪評価
2007 中川俊明,林 佳典,
畑中裕司,青山 陽,
水草 豊,藤田明宏,
加古川正勝,原 武史,
藤田広志,山本哲也
第23巻2号85-90頁 1枚の2次元眼底画像を用いた3次元眼底画像の構築
2006 李 鎔範,蔡 篤儀
第21巻1号122-130頁 微小石灰化像良悪性鑑別のための人工ニューラルネットワーク法とファジィ推論法のROC比較評価
2005 小倉敏裕,浅野和也,
金田伸也,清水宏史,
長田千晴,猪狩功遺
第21巻1号152-158項 カーブドスラブMin IP法による膵管,胆道イメージング
2004 田中理恵,真田 茂,
鈴木正行,小林 健,
松井武司,井上仁司,
中野善久
第20巻1号13~19頁 胸部動画像を対象とした呼吸性動態の定量化
2003 妹尾淳史,伊藤彰義 第19巻1号10~17頁 動画像認識を応用した心電図同期SPECTの左室壁運動解析
2002 犬井正男
第18巻2号70~74頁
X線スクリーン・フィルム系の単一照射センシトメトリ
片渕哲朗,浅居喜代冶,
藤田広志
第18巻1号19~30頁
     31~38頁
①ファジィ推論における非ファジィ化の検討―新しい非ファジィ化法の提案―および
②ファジィ推論における非ファジィ化の検討 ―密度モーメント法を用いた医療支援診断への応用―
2001 臼井幸也,蔡 篤儀,
小島克之,山田 功
第17巻2号72~79頁 強化学習法に基づく医用画像のセグメンテーションおよび関心領域の抽出
2000 塚本和也,中森伸行,
角尾卓紀,吉田靖夫,
遠藤真広,日下部正弘
第16巻1号20~28頁
コーンビームCT画像への散乱線の影響と画質改善
1999 五藤三樹,遠藤登喜子,
藤田広志
第15巻1号27~35頁 マンモグラム上の腫瘤陰影の良・悪性鑑別について
武藤晃一,安野泰史,
山口弘次郎,近藤 武,
古賀佑彦,高山 聡,
久米祐一郎,津田元久
第15巻2号107~116頁 ヘリカルCTを用いた大動脈壁石灰化定量評価法の開発
1998 山田英彦,奥村泰彦,
大坊元二,丹羽克味
第14巻1号96~103頁 増感紙の直接LSF測定
1997 山田正良,福澤理行,
池田博昭,狐塚善樹,
桜井 隆,児玉壮一
第13巻1号27~35頁 新生児頭部超音波エコー動画像の評価
1996 福島重廣,西田知広,
大庭 健
第12巻1号35~43頁 最小値投影にもとづくサブトラクションを用いたシネX線画像からの
下顎頭運動軌跡の追跡
1995 山野 要,中森伸行,
山田正良,金森仁志
第11巻1号13~21頁 電子のエネルギー分布を考慮した制動放射X線スペクトルの計算
―経験式およびエネルギー分布を考慮した方法で計算した結果と Fewellらの実験結果との比較―
1994 芦田 修,藤田広志,
石田隆行,山下一也,
滝川 厚,松原友子
第10巻3号111~118頁 ニューラルネットワークによる骨粗鬆症診断のためのX線骨梁像の解析
1993 深川浩志,鈴木洋一,
山口高弘,長谷川 伸,
兵藤一行,安藤正海,
杉下靖朗,垣花昌明,
大塚定徳,武田 徹,
秋貞雅祥,西村克之,
豊福不可依,竹中栄一
第9巻2号83~90頁 KエッジサブトラクションX線テレビシステム
1992 小島克之,蔡 篤儀,
田中嘉津夫,内田 勝
第8巻2号35~42頁 シミュレーションによるコルトマン補正に関する考察
1991 青木雄二,三浦典夫 第7巻1号17~23頁 ウィナースペクトル測定におけるスリット長の増感紙構成からの検討
1990 Hiroshi Isobe,
Eiichi Sato,
Satoshi Kawasaki,
Yoshiharu Tamakawa,
and Toru Yanagisawa
第6巻1号19~24頁 A Triple-Flash X-ray Generator Having Variable Spectra
1989 藤田広志,上田克彦,
藤川津義,大塚昭義
第5巻1号1~10頁 輝尽性蛍光体を用いたディジタルラジオグラフィの解像特性
Ⅱ ディジタル特性曲線とプリサンプリングMTFの測定
1988 樋口清伯,辻 隆平 第4巻3号101~107頁 算術符号化による画像データの圧縮
1987 田中嘉津夫,佐々木貴朗 第3巻3号173~181頁 X線フィルム粒状とランダムドットモデル
1986 松本政雄,中森伸行,
金森仁志
第2巻1号18~26頁 散乱線を含めたX線スペクトル測定法

投稿者 lee : 2005年06月18日 13:23

金森奨励賞

受賞年 受賞者 巻,号,頁
論文名
2015 立永 謹 第31巻 3号47-53頁 頭部MR画像における経時差分法の開発
2014 竹上 和希, 林 裕晃,
紀本 夏実, 前畑 伊採,
野々宮 泉, 福田 郁磨,
小西 有貴
第30巻 3号53-56頁 動的マルチスリットを用いたコンピューティッドラジオグラフィシステムの特性曲線の取得
2013 大野 智之, 寺本 篤司,
鈴木 昇一, 小原 健,
津坂 昌利, 藤田 広志
第29巻 2号39-42頁 高分解能乳房専用CTに関する初期的検討 : 実験用装置の開発と評価
2012 高長 雅子, 林 則夫,
濱口 隆史, 大野 直樹
第28巻4号92-96頁 3T-乳腺MRIにおけるDixon法を用いた脂肪抑制法の検討
2011 武村哲浩,三井 渉,
奥村悠祐
第27巻 1号1-5頁 肝動脈でのroadmap機能における横隔膜位置を用いた呼吸性移動の補正手法の信頼性評価
2010 國枝 琢也 第26巻3号59-63頁 脳MR画像におけるラクナ梗塞と血管周囲腔拡大の鑑別法
2009 小西達郎 第25巻4号90-95頁 被写体物質の違いに起因するX線CT画像コントラストの管電圧依存性の変化
2008 小椋 潤,内山良一,
山内将史
第24巻2号84-89頁 ベクトル集中度フィルタを用いたMRA画像における脳動脈瘤の検出法
2007 近藤雅敏,篠原範充,
原 武史,中川俊明,
周 向栄
第22巻2号141-152頁 濃度勾配ベクトル解析を用いた模擬石灰化像の自動画質評価法
2006 石川雅浩,内田日高,
玉木 徹,五十嵐正人
第22巻3号210-219頁 CTAPからの様々な血管特徴抽出のための一手法
2005 李 鎔範 第21巻1号122-130頁 微小石灰化像良悪性鑑別のための人工ニューラルネットワーク法とファジィ推論法のROC比較評価
2004 周 向栄,原 武史 第20巻1号44-47頁 マルチスライス体幹部CT画像からの人体組織・臓器領域の自動認識に関する初期的検討
2002 李 鎔範,中川俊明,
原 武史
第18巻3号135-143頁
高次局所自己相関特徴を用いた胸部X線CT画像上の腫瘤陰影の自動検出
2001 山崎隆治,隅田伊織 第17巻2号88-96頁 CT装置の一次X線スペクトルの解析
宮島悟史,森見左近 第16巻2号79-89頁 CdZnTe半導体検出器を用いて測定した診断領域X線スペクトルの補正
2000 福澤理行 第16巻2号59-69頁 新生児脳室内出血における超音波エコー動脈拍動の分布
1999 福岡大輔,原 武史 第14巻3号148-154頁 乳房超音波断層像における腫瘤像の自動検出法の開発
1998 浅井義行,尾崎吉明,
窪田英明
第14巻2号83-95頁 心理物理的解析を用いたX線写真粒状の評価

投稿者 lee : 2005年06月18日 13:11

表彰規定

医用画像情報学会表彰規程
1986(昭和61年) 2月22日制定
1991(平成 3年) 2月 9日改正
1997(平成 9年) 2月 8日改正
1999(平成11年) 1月30日改正
2001(平成13年)10月20日改正
2003(平成15年) 5月31日改正
2006(平成18年) 6月 3日改正
〔表彰の種類〕
第1条 表彰の種類は次のとおりとする。
 1 医用画像情報学会賞
 2 内田論文賞
 3 金森奨励賞
 4 功績賞
第2条 医用画像情報学会賞(以下「学会賞」という)は,本学会役員として多年にわたり活躍し,かつ医用画像情報学に優れた業績を有する等,本学会の発展に際し特にその功績が顕著であった者にこの賞を贈呈する。
第3条 内田論文賞(以下「論文賞」という)は,内田勝氏の本会創設の功労を永く讃えるために設けたものであり,医用画像情報学会雑誌(以下「会誌」という)の論文欄に発表された論文の内から,特に優秀なものを選定して,これに贈呈する。
  2. 論文賞の対象となる論文は,表彰の時期の前年の12月までの1年間に発表された論文とする。ただし第11条4項に適用するものを除く。
  3. 論文が共著の場合は,著者全員が受賞するものとする。
第4条 金森奨励賞(以下「奨励賞」という)は,金森仁志氏の永年にわたる本学会の発展的運営に対する功績を記念して設けたものであり,将来有能な研究者を育成するためのものである。
  2. 奨励賞の対象となる者は,会誌に発表された論文の内第1著者が表彰の年の3月31日現在満38歳以下の者とする。
  3. 奨励賞の対象となる論文は,表彰の時期の前年の12月までの1年間に発表された論文及び研究速報とし,これらの内から優秀な者を選定して,これに贈呈する。ただし第11条4項に適用するものを除く。
  4. 論文が共著の場合は,満38歳以下の著者全員が受賞する。
第5条 功績賞は,医用画像情報に関する学術,技術並びに本会の事業に対し功労があり,その功績が多大な者を選定して,これに贈呈する。
 
〔表彰の方法〕
第6条 受賞者の決定は,表彰選考委員会(以下「委員会」という)の報告に基づき,理事会が行う。
第7条 学会賞と功績賞はそれぞれ毎年1名以内,論文賞と奨励賞はそれぞれ毎年1件以内に贈呈するものとする。ただし,理事会が必要と認めた場合は,この定数をこえて贈呈することができる。
  2. 各賞とも該当者のない場合には賞を贈呈しない。
第8条 賞を受けるものは,原則として本会の会員とする。
  2. 論文賞と奨励賞は,重複して受賞することができる。
  3. 学会賞並びに功績賞に関しては,同一人が同一の賞を再度受けることはできない。
第9条 表彰は表彰状を授与して行うものとする。表彰状には副賞を添えることができる。
  2. 賞は通常総会において贈呈する。
  3. 受賞者の氏名,業績の内容等は,会誌に発表する。
 
〔選考委員会〕
第10条 選考委員会は,理事の内から委員長が指名した委員をもって構成する。ただし,必要に応じてこれに学識経験者若干名を加えることができる。
  2. 委員長は,理事会の推薦により決定する。
第11条 選考委員会は,別表第1に定める選考手続により受賞候補者の選定を行う。
  2. 選考委員の3分の2の投票があれば有効とする。有効投票が3分の2に満たないときは,理事会の判断に委ねる。
  3. 論文賞,奨励賞のそれぞれの候補論文の投票数が同数の場合は,理事会の判断に委ねる。
  4. 論文賞,奨励賞の次点論文の扱いについて,受賞論文と投票差の少ない場合には,選考委員会の議を経て次年度の本選の候補論文とすることができる。
第12条 委員長は,前条の手続きにより受賞候補者の選定が終わったときは,その結果を理事会に報告する。
第13条 選考委員会は,理事会が受賞者を決定したときをもって解散する。
 
〔経    理〕
第14条 論文賞の経費は,原則として内田 勝氏からの寄付金の利子により支弁する。
第15条 奨励賞の経費は,原則として金森仁志氏からの寄付金の利子により支弁する。
第16条 学会賞と功績賞の経費は,一般会計から支弁する。
 
〔そ  の  他〕
第17条 この規程(及び第11条に定める選定手続き)の改正は理事会の議決による。
 

[別表第1]
 
受賞候補者選定手続き
 
    論文賞,奨励賞 学会賞,功績賞
       
5月 会誌  
9月 ホームページ及び
メールマガジン
公募(事務局)  
       
10月 第3回研究会の理事会
(委員長決定)

   
2月 第1回研究会の理事会
(委員会発足)
(以下委員長が
事務を行う)


一覧表作成(事務局)
  |||||
  |||||
  |||||
  |||||
  ↓↓↓↓↓
.推  薦

||||
||||
↓↓↓↓
       
2月 無記名投票(予選)



それぞれ2件選出

   |  |
   ↓  ↓

可否決定

  |
  |
  |
3月 無記名投票(本選)


それぞれ1件選出

     |
     |
  |
  |
  |
  |
4月 結果を委員及び
会長に報告



     |
     |
     |
     ↓
  |
  |
  |
  ↓
6月 第2回研究会の理事会

総会

委員会解散
    承 認

    受 賞
 承 認

 受 賞
 

投稿者 lee : 2005年06月18日 13:06

会則

医用画像情報学会会則
1984年(昭和59年)6月30日制定
1986年(昭和61年)6月 7日改正
1995年(平成 7年)6月17日改正
1996年(平成 8年)6月 7日改正
1999年(平成11年)6月 5日改正
2002年(平成14年)6月 9日改正
2003年(平成15年)5月31日改正
2005年(平成17年)6月 4日改正
2007年(平成19年)6月 2日改正
2008年(平成20年)5月31日改正
第1章  総  則
 
第1条
本会の名称を医用画像情報学会とする。
第2条 本会は,放射線像等の医用画像に関する基礎及び応用の研究を通じて,これら学問の進歩普及を図り,もって学術の発展に寄与することを目的とする。
第3条 本会は,前条の目的を達するために次の事業を行う。
 1 年3回以上定期研究会の開催
 2 会誌の発行
 3 その他,理事会が適当と認めた事業の遂行  
第4条 本会事務所の所在地は細則で定める。
 
第2章  役  員
 
第5条 本会の円滑な運営と第1章第2条の目的達成のため会長1名,監事2名及び理事若干名を置く。
第6条 会長,監事は,本会の会員の中から会員の選挙によって決定し総会の承認を受ける。
第7条 会長は,会を代表する。
第8条 監事は民法第59条の職務を行い,本会の他の職務を兼ねることはできない。
第9条 理事は,会員が選任する。ただし,理事の内2名以内は,会長の指名により選任することができる。
第10条 常務理事は,会長が理事中より指名する。
第11条 会長,理事及び監事の任期は3年とする。
第12条 顧問は,会長が委嘱しこれを決める。
 
第3章  会  員
 
第13条 本会の会員は,正会員,賛助会員及び名誉会員とする。
第14条 本会に入会しようとする者は,理事会の承認を必要とする。
第15条 正会員は,第1章第2条の目的に関心を持つ個人で資格は別にこれを定めない。
第16条 賛助会員は,第1章第2条の目的に賛同し,その事業を援助する者又は団体とする。
第17条 名誉会員は,本会に功労のあった者を理事会で定め,総会で承認する。
   2. 会長,常務理事又は顧問を長年務めた者が名誉会員となるときは,理事会の承認を得て,それぞれ名誉会長,名誉理事又は名誉顧問と称することができる。
第18条 正会員及び賛助会員の会費は細則に定める。
第19条 会員でない者が,本会の研究発表会に参加するときは,別に所定の参加費を徴収する。
第20条 退会は自由とする。
 
第4章  総会,常務理事会および理事会
 
第21条 年1回総会を行う。総会は会員の10分の1以上の出席をもって成立する。
第22条 本会の事業を行うために,会長と常務理事により作られた常務理事会と,会長と理事により作られた理事会を置く。
第23条 常務理事会は,会の運営について審議し,その事業を行う。
第24条 常務理事会は,会長が欠員であるか,会長に事故があるときには,会長の任務を代行する。
第25条 常務理事会及び理事会は,常務理事又は理事の3分の1以上の出席をもって成立する。
   2. 名誉会長,名誉理事及び名誉顧問は理事会に出席し意見を述べることができる。
第26条 会則の改正などの重要事項は,常務理事会及び理事会の審議を経て,総会の承認を得るものとする。
 
第5章  資産および会計
 
第27条 本会の資産は,会費及び寄付金をもってこれに当てる。
第28条 本会の事業遂行に要する費用は,前条によって生ずる資産をもって支弁する。
第29条 本会の収支決算は,常務理事会が作成し,理事会の審議を経て総会の承認を得るものとする。
第30条 本会の会計年度は,4月1日より翌年3月末日までとする。
 
第6章  会則の変更ならびに解散
 
第31条 本会の会則の変更は,常務理事会及び理事会の審議を経て,総会の承認を得るものとする。
第32条 本会の解散は,常務理事会及び理事会の審議を経て,総会の承認を得るものとする。
第33条 本会の解散に伴う残余財産は,理事会の議決を経て処理方法を決定し,総会の承認を得るものとする。
第34条 この会則施行についての細則は常務理事会の議決を経て別に定め,理事会の承認を得るものとする。
 

 
細  則
 
第1章  会  費
 
第1条 正会員の会費は1年につき5,000円,賛助会費は1年につき1口を30,000円(2分割払い可)とする。
第2条 会費を2年以上滞納したときは原則として退会とみなす。
 
第2章  役員および委員会
 
第3条 理事の互選により総務理事1名を選出する。総務理事は会務を取りまとめて常務理事会と理事会の運営に当たる。
第4条 会務を遂行するために,会長は常務理事の中から次の担当理事を委嘱し,委嘱された理事は若干名の会員とともに委員会を構成することができる。
   1 庶務
 2 財務
 3 企画
 4 編集
 
第3章  表  彰
 
第5条 会則第3条第3号の事業の一環として,本会の目的又は事業に関し功績のあった者の表彰を行う。
第6条 表彰の種類,方法等については別に定める。
 
第4章  事 務 所
 
第7条 会則第4条の事務所の所在地は,金沢市小立野5-11-80,金沢大学医薬保健研究域保健学系内とし,業務の一部は有限会社クァンタムに委託する。
 

投稿者 lee : 2005年06月18日 13:02

名誉会員

<名誉会員>
・内田 勝 (名誉会長)
・金森仁志(名誉理事)
・長谷川 伸(名誉顧問)
・土井邦雄(名誉顧問)
・磯部 寛
・三浦典夫
・矢仲重信
・山崎 武
・山下一也
・田中俊夫
・速水昭宗
・稲本一夫
・滝沢正臣
・津田元久
・丹羽克味
・松井美楯
・畑川政勝
・樋口清伯
・桂川茂彦

投稿者 lee : 2005年06月18日 12:48

「研究のために」 内田 勝(名誉会長)

(日本放射線技術学会雑誌 第53巻 第10号  1997年10月 (p.1607-p.1612) から転写)

研究のために

医用画像情報学会名誉会長・日本放射線学会名誉顧問
内田 勝


 まえがき

 最近,「研究の進め方と論文のまとめ方」と題して本学会九州支部総会において2年にわたり講演を行った.その記録を基に,これらをまとめてみてはとの小寺編集委員長・藤田画像分科会長の勧めがあり,わずかでもお役にたてばと筆を取った次第である.そこで上記内容に 2,3を加え,「研究のために」と改題して更新したものである.
 もともと研究というのは各個人のものであって,個人でそれぞれ行き方があり,一律にこうあるべきだなどということはできない.したがって,ここに述べることは研究を進めてきた筆者個人の考え方・方法である.筆者自身あまり学者としてオーソドックスな道を歩んではいない.どちらかといえば,放射線技師・X線技師として徒弟制度に苦労してきた人々と同じような道を歩いたと思っている.
 筆者自身のことをいえば,研究については撮影に始まって今でも撮影のことを考えている.撮影条件から始まり,MTF・ウィーナースペクトル・エントロピー解析・冗長度・系列依存性・ファジィ推論と撮影系一筋に今まできている.これが筆者のこれまでの行き方である.これらについて,1)研究に取り組む姿勢・2)研究の進め方・3)論文のまとめ方・4)その他に分けて述べてみたい.講演時には筆者の過去の論文別刷りを何編かお渡しして例として説明できたが,本稿では無理なので文献を適宜参考にしていただきたい.

1.研究に取り組む姿勢

1-1 最優先
 研究をすべてに最優先するということである.筆者が大阪大学から宮崎大学に赴任するときに,立入先生に教授としての心構えについて伺ったことがある.先生がそのとき即座に言われたことの一つに「研究のために家庭を犠牲にすることをためらってはならない」がある.非常に厳しい言葉ではあるが,研究に志す者の必須の条件であると思う.人間誰しも研究以外のマイナス環境を多く持っている.研究のためにはこれら研究以外のマイナスの環境を切り捨てて進む位の心構えが必要であると思う.研究成就のためには多少の犠牲は止むを得ないのではなかろうか.
1-2 常に頭に置く
 常に研究のことを頭のどこかに置いておく.食事のとき・寝ているとき・トイレの中・パチンコ中・どこでも常に無意識的に頭の傍らで考えて置かねばならない.そうすることによって何かヒントがあったときにパッとこれが出てくる.全然頭に置いてないと,いいヒントがあってもそれに気が付かないことになる.
1-3 継続は力なり
 研究は継続しなければ力にならないということである.年月の単位でなく一生継続するくらいの心構えが必要と思う.
1-4 好奇心
 常に好奇心が旺盛であってほしい.英雄色を好むというが,英雄は非常に好奇心が強いということであろうと思う.筆者はもちろん英雄ではないが,若い頃から好奇心は旺盛である.面白そうなものには何でも飛びついて,成功談もあれば,失敗談もある.この歳になってもまだその癖は直らない.ウィンドウズユ95が出たときにはすぐに飛びつき,現在は全世界のホームページを毎日読んで楽しんでいる.また著作にもE-mailを活用して約20名以上の分担執筆者に瞬時にメールの送・受信を繰り返している.

2.研究の進め方

2-1 好きこそものの上手なれ
 研究テーマを見つけることが始めである.実際に仕事をしている現役中がテーマ探しには一番強い.筆者が 2年間ほど大阪大学で技師学校を作る準備の間,「ハィ.息を止めて」と技師の仕事をしていたことがある.このとき撮影に関する研究テーマが次から次へと追いつかないほど出てきた.分からないことだらけで一番分からなかったのが名人芸と言われていた撮影条件の設定であった.何しろ門外不出とさえ思われるほど知ることが難しかった.これが筆者の初めて出会ったテーマであったわけである.
 テーマは自分の身の回りに沢山ある.それを見る目を持つことである.「好きこそものの上手なれ」という言葉がある.撮影・測定・核医学・機器・コンピュータなどなど自分のしている仕事の中で,自分の好きな分野の中でテーマを見つけることである.テーマは難しいことではなく,自分にとって分からないものを見つけること,そして徹底して分かるまで勉強することである.
2-2 解析手段
 問題を解析する方法は代数・微積分・微分方程式などの従来の解析的な手法で解くのが最も楽である.しかし,大きないい仕事をしようと思えばこれだけでは十分でない.また,自分の身の回りの大抵の問題はどこかですでに済んでいることが多い.しかし,その方法は大抵従来の解析的な手法に因るものである.
 そこで新しい手法に飛び込んでみることを勧める.例えば,フーリエ変換・ウェーブレット変換・エントロピー・ファジィ・ニューロ・カオス・フラクタル・遺伝的アルゴリズムなどなどの手法がある.何でもいい,自分の興味を引き,手に合いそうなものに取りついてみることである.自分で手法を開発するのではなく,すでに開発された手法を勉強するのであるから,根気さえあればできる.いかに古いテーマであってもそれを解決する手法が新しければ即論文になる.
 例えば,X線管焦点の諸問題にしても従来解析的に解かれていた疑問点が,フーリエ変換を用いて解けば新しい論文になるわけである.エントロピーなどでも,胸部撮影の写真からフィルムにどれだけの身体内部の情報が得られているか,その撮影技術の評価を求めることができる.他の部位についても同様である.X線撮影条件にしても,mA・secondはホトタイマで線形制御はできるが,管電圧については技師の自由意志に任されている.これは人間のあいまいさでどうにでも変わる.この電圧制御をファジィ推論で解いてみようという試みがある.
 このように,新しい手法を身につけて古い問題であってもこれを新しい手法で解く,こういう方法が一つの研究の進め方であろうと思う.
2-3 デカルトの科学方法論
 研究の進め方には昔から一つの指導原理がある.それはデカルトの科学方法論で,数学の解き方をもって科学全般の解き方とした.次の四つの主導原理がある.
1) 明証性の規則:あやふやなものはテーマにとるな.はっきりしたものだけとれ.
2) 分析の規則:テーマが決まれば,細かくこれを分析する.物質が分子-原子-原子核-素粒子と細かく分析される例がよく用いられる.
3) 総合の規則:分析したその要素を総合しなさい.素粒子から逆に物質まで再構成しなさい.
4) 列挙の規則:この再構成した後で,自分の考えが間違っていないかどうかいろいろな例について確かめる.
 デカルトは明らかでないものは一切扱うな.確実なデータを集めて物事を分析しなさい.分析した後でその要素から全体を構成しなさい.構成した後,自分の考えが本当に間違っていないかどうか,いろいろな例について確かめてみなさい.これがこの科学方法論といわれる四つの主導原理の主旨である.この方法論があらゆる科学の基礎になって現代までこのように文化の発展をもたらした基本となっている.
2-4 指導者
 自分の信ずる指導者のいる人は指導者の一言一句に柔順に従うこと,決して我意を通してはいけない.そして一人前になったら,今度は自分のカラーをどんどん出して仕事をする.これが一つの方法である.
 ところが指導者がいない人はどうすればよいか.筆者も自分の決まった指導者はいない.読者にはそのような人が多いかも知れない.そういう人はまず,何でもいいから「好きこそものの上手なれ」でテーマを掴んで研究を始めることである.
 よく依頼された原稿に早く取り掛かるいい方法として,「まず初めの一行を書け」というのがある.何でもいいから一行書く,テーマを書いてみなさい,これが誘い水になってあと楽に筆が進むこと請け合いである.
 この例のように,研究をまず関心あるテーマについて始めてみる.そうすると分からないところが必ず出てくる.分からないところが出るたびに,その分野について時間をかけて徹底的に勉強する.そこが分かったら先に進む.例えば,代数に分からないところが出れば,その部分を中心に徹底して代数をものにする.今度は微分が分からない.同様に克服する.このようにして積分・微分方程式と基礎を築いていく.時間はかかるが,このように続けることで広範囲な基礎を身につけることができる.
 以上のように指導者がいなくても,自力本願で向上心と意志さえあれば基礎を築き,研究を伸ばすことが可能であると思う.
2-5 共同研究者
 理論的な論文については,共同研究者がいないことが多い.実験を含む一般的な研究については,何名かの連名の共同研究が能率的である.そのとき共同研究者をどのようにするかということがある.ここでいう共同研究者とは,学位を受けるため,また,受けたため儀礼として書く人や研究費を受けた関係の人を含まない.共同研究者とは筆頭者の研究に実際に協力した人のことである.ただその場合,仕事の量だけでなく,仕事の質についても考えて判断するべきである.共同研究者はあくまでも筆頭者の判断で決めるものである.
 実験上で工作準備等の補助的な手助けを受けることもあるが,そうした人を共同研究者にする必要はない.ただ論文の中で謝辞を述べることが礼儀ではないかと思われる.謝辞にはその論文に関係してお世話になった人々が多く名を連ねることはいうまでもない. 研究は優れた指導者の下で頭を練り腕を磨くということが大切であると思う.ところがそのような人とは別に,一匹狼的に単独で研究を進める人も多い.これはこれですばらしいことである.このような人は広く論文を読んで独断と偏見に陥らないようにすれば立派に大成できると思われる.ただ一般的な道筋としては,若いときは研究グループに属して鍛えられ,素直な気持ちで指導を受ける.長じては自分のカラーを鮮明にし,リーダーとなって進んで行くということが現実的ではないかと思う.
2-6 発表雑誌
 立入先生の言葉に,「草野球でホームランを飛ばしても仕方ない.プロ野球でホームランを飛ばしなさい」というのがある.この意味はそれぞれ専門の最高の学会で論文を発表するということである.放射線技師はぜひ専門の放射線技術学会でホームランを飛ばして欲しい.ただし,学位を受けるなどの学問的な認知を受ける目的ならば,伝統と権威のあるその専門学会を選ばねばならない.そのため研究をして学問的な認知・評価を受けるか,技術的な認知・評価を受けるかの判断によって発表学会を選ぶべきである.
 最近は前述の二つの認知・評価を兼ね備えようとする動きもあり,その現れとして「学術博士」がある.したがって,何事も継続して努力すればそれにふさわしい認知・評価を受けることができる.

3.論文のまとめ方

3-1 起承転結
 起承転結とは,漢詩の句,とくに絶句の配列の名称である.広辞苑によれば,第一の起句で詩思を提起し,第二の承句で起句を承け展開し,第三の転句で詩意を一転して転換した末に,第四の結句で全詩意を総合する構成法とある.論文の書き方にも個人差がいろいろあるが,一般的にいってこの起承転結という言葉がよく使われる.これは漢詩を作る順序だが,文章を書くうえで当たらずとも遠からずのいい言葉である.これを学術論文に当てはめてみる.
 まず起こす,これは緒言,それからつぎに起こしたものを承ける.緒言でどういうことをするということを書いて,それを承けて実際の中身を展開して書く.計算を書くのもいいし,理論的なものを書くのもいい.そして流れを進めた後一転して他のことを書く.実験・実験結果・吟味などに進む.また,承が実験的なものならここには理論的な裏付けを書くなどして転換する.最後にこれらをまとめて結論に導く.
 以上が起承転結に従った学術論文のまとめ方である.大体この方法はよく知られているが,ここに緒言に関して重要なことが一つある.それは「このテーマに関して,どこまでが,すでに研究され知られているか,どこがまだ明らかでないのか.自分はその中でどの部分を研究してどのような新しいことを見つけ出したのか」こういうことを必ず書かねばならない.これはどんな個人差があっても必ずこれだけは鮮明に書くことである.
 口頭発表も同じである.今までこのテーマに関してはここまでされている,しかし,これから先はできていない.その中で自分はこの部分をやった,というように何が新しいかということを鮮明にいう必要がある.以上を緒言に書くためには相当量のこのテーマに関するペーパーを読まないとできない.
 筆者は学会などからよくレフリーが回って来る.以上のように書かれた論文だと,緒言と結論を読んだだけでその論文のウエイトが大体決まってしまう.以上に従ってない論文だとそのオリジナリティが分からず,没ということになる.そういう意味からもこの緒言の内容は十分心して書くよう気をつけていただきたい.
3-2 骨と皮だけ
 筆者が応用物理に初めて投稿した「X線管焦点のX線強度分布のフーリエ解析」という論文がある.これがレフリーから跳ね返って来た論文は,無残としかいいようのないほど,真っ赤になって訂正されていた.その頃,旧仮名使いで書いていたので,全部新仮名使いに訂正,X線管焦点については割合知っているので,あれも知っている,これも知ってると言わんばかりに書いている.これは全部贅肉,全部削除された.骨と皮だけにしてX線管焦点の空間周波数特性だけしか書かない.よく知っていることは,かえってマイナスになる.このように贅肉を取ることは非常に難しい.断層撮影系のボケのフーリエ解析も同様な経過であった.
 ところが,電離槽線量計のボケのフーリエ解析のときは非常に楽であった.電離槽線量計については知識に乏しい.したがって,電離槽線量計の測定ボケについて実験・計測・計算したことしか書けない.一発でパスした論文である.英文であったことが重なった効果をもたらしたのかも知れない.知らないから贅肉の付けようがない.TLDのエントロピー解析なども同様にいい結果であった.
 学術論文というのは多くのことを書き過ぎると要旨がぼやけてしまう.余分なことを一切書かないことによって要旨がはっきりしてくる.要するに論文を書くときは骨と皮だけにするよう心掛けることである.
3-3 精読
 自分の関心ある領域の論文を徹底して読むこと.筆者の若い頃,島津製作所の中堀先生のコンデンサ式X線装置の波長に関する論文の別刷りを,いつも持ち歩いて紙がぼろぼろになるほど読んだ.中堀先生のところに行ったときにそれを見せ,もう一部欲しいといったところ先生が大変感激された思い出がある.それくらい徹底して一つの論文を読みこなしたとき,内容・文章・言葉の使い方・学術用語・体裁・その他限りないことが身につく.論文を精読することが論文を書く何よりの勉強になると思う.自分の関心ある領域で代表的と思われる論文が必ずいくつかある.一つでもいいから時間をかけて急がずじっくりと読みこなすことを勧める.それから得られるものが,いかに大きいか間もなく気付かれるであろう.

4.その他

4-1 口頭発表
 最近,原稿を読む口頭発表が大変目につくようになった.原稿を読んでいる発表は,聞いている者には非常に分かりにくい.この方式は,もともと指導者が弟子に発表させるとき,論旨を間違えないように,また中身を抜かさないように,制限時間内に済ませるようにとの親心から出てきたものであろう.研究発表の場は弟子の教育の意味から練習という考えも分からないではないが,主体は聴衆である.主客転倒しては困るのである.まず,聴衆によく分かってもらうことが先決である.そして,聴衆からの反応によって演者が勉強する場である.聴衆が分かりにくくては意味がないのである.練習は本番前に十分行うべきである.
 読む口頭発表が何故分かりにくいかというと,発表の形態が目から口に直通していることである.頭の中を通っていないからである.同じ読む方式でも目から頭へ,頭から口へと考えながらのゆっくりしたテンポなら分かり易い.よくテレビなどで朗読というのがあるがこれである.弟子達は読むのに必死で考えることは済んでると言わんばかりである.
 ベテランはスライドあるいはOHPなどによって,考えながら要点だけのメモを参考にしながら口頭発表する.したがって聞いている者も演者とほぼ同じテンポで考えについて行くことができる.ぜひ,このように口頭発表の形式をしていただきたいものである.
 ついでに述べると,スライドの中の字数のことである.その会場の大きさに従って決めねばならない.一番後ろの席からでも確認できるようなものである必要がある.1 枚のスライドでせいぜい 7行から10行といわれている.広い会場ではそれ以上になると識別困難である.図表などで止むを得ずもっと細かい字の羅列が必要なことがある.そのようなときには,支持棒で示しながら口頭で読み上げるなどの親切心が必要となる.要は聞いてもらう人々に,いかにすれば分かり易いかの心配りが大事である.
4-2 出会い
 本年 4月横浜における本学会で,「サイエンス講座」という企画があり,筆者もその一人に選ばれ「出会いと私の研究」という題で講演を行った.しかしその明細は記録になっていない.さらに本誌上講座に略歴を付記するようにとの要請があるので,「出会いと私の研究」そのものが略歴と考えられ,研究に関してのみ出会いを記して略歴に代えようと思う.
 筆者は福岡県大牟田市,1921年の産である.父と母との出会いによって他の人々と同様に筆者の生涯は始まった.早く父に別かれ母子家庭で育った.筆者が29歳,研究らしいことを始めるまでは自分史に譲るとしよう.いろんな人との出会いによって百姓・闇屋・女学校・中学校・高等学校・水産講習所などの教師を経て,大阪大学医学部付属病院文部技官(放射線科勤務)が研究に取り付く初めての職場であった.1950年である.
 そこでは,慈父のような西岡教授との出会いがあり,同僚宮永講師との出会いがあった.西岡教授の愛情に育まれ,宮永講師との好ライバル意識は弥が上にも研究に駆り立てられた.昭和25年から27年にかけて技師学校の創立の準備にかかった.当初の計画は短大として文部省に申請が行われたが,意図に反し各種学校として昭和27年に認可された.
 その頃である.畏友山田正光君に出会ったのは.情報理論の言葉を初めて知った.昭和30年の頃である.C. E. Shannonが発表して約 7年後である.それから情報理論との格闘が日夜続いた.しかし,筆者の鈍な研究歴では到底歯が立たない.いまだにその一部が理解できたにとどまっている.
 5,6年間位だったろうか,母の死・情報理論理解の行き詰まり・技師学校の不透明な将来は筆者を自棄に近い状態に追い込んだ.それを救ってくれたのは「アサヒカメラ」のレスポンス関数という記事との出会いであった.その頃大阪工業技術試験所におられた村田和美部長の指導を得,立入教授の支援を得て,昭和39年放射線イメージ・インフォーメーション研究会(RII)を創設した.それから研究生活は軌道に乗った感がある.事志に反し,情報理論ならぬレスポンス関数に代表される空間周波数特性にのめり込んだ.
 熊谷教授(後に愛媛大学学長)・鈴木教授との出会いは昭和43年工学博士学位受領の栄を得た.職場も技師学校は短大に昇格,あれほど悩んだ技師学校も17年で卒業できた.大阪大学助教授(医学部),同医療技術短期大学部助教授,昭和44年には宮崎大学教授(工学部),昭和50年には岐阜大学教授(工学部)と昭和60年定年に至るまで順調な研究生活が続いた.
 その間,当時速水講師の示唆によりMTFを放射線測定系に導入したり,反転現像を稲津技師長と開発したりした.外にも,田中・小島・藤田・小寺・佐井・桂川・山下・大塚・畑川・・・各氏との出会いが100編以上の研究論文を生んでいる.
 特筆すべきは,岐阜大学の生協図書で見つけた翻訳書「心理学と情報理論」による啓示である.本をパラパラと拾い読みしたときの瞬間をいまだに忘れることはできない.正に神の啓示であると思った.目から鱗が落ちるとはこのようなことを言うのであろう.若い頃から,この厖大な情報理論の中のどの部分を放射線撮影系のどの部分に適用すればいいのか,まったく五里霧中であった.それがこの書をきっかけとして霧が晴れて行く思いであった.その後,冗長度・系列依存性へと発展させて撮影系に導入し,30編以上の論文に育ててくれた人々は多い.稲津・藤田・佐井・小寺・大塚……各氏その他の人々である.これらの人々との出会いがなければ,到底この業績は得られなかったであろう.
 国立大学の研究・教育は定年63歳,昭和60年に退官した.その後,常葉学園大学教授(教育学部)として常葉学園浜松大学を新設するべく準備にはいる.昭和63年から常葉学園浜松大学経営情報学部長として大学の運営にも関与することになった.理系の筆者が文系の中で途方に暮れたことはいうまでもない.しかも研究・教育の現役でなく,管理・運営面が主体であってみれば苦悩に充ちた日々であった.
 その頃ファジィという言葉が門外漢のわれわれの耳にもはいって来た.何げなく取り上げた解説書からファジィのルーツはパスカルであることを知った.短大時代に同僚であった東大仏文出身のパスカリアンと,京大法科出身のカルテジアンのパスカル・デカルト談義をタイムスリップしたように思い出した.それ以来,このファジィを撮影系に導入する試みの傍ら,デカルトの近代合理主義とパスカルの近代非合理主義による諸現象の比較解析について勉強を続けている.
  浜松大学を定年70歳で平成 4年(1992年)退職,その後,乞われて静岡理工科大学総合技術研究所客員教授として在籍し,1996年に退職する.現在は宮崎県綾町で静かに著作に専念している.
 以上のように,人・物との出会いによって研究の糸口・ヒント・方法・きっかけなどが得られ,協力して論文になったものが多い.名前はそれぞれ一人を挙げているが,「袖触れ合うも他生の縁」を含めるとそれこそ厖大な数に上る.人生に孤独なドラマがないのと同様,研究にも無限に近い背景があり,出会いが存在する.このように多くの人々との出会い,物との出会いによって,筆者の研究は現在にまで引き続いて行われた.これからもさらに新しい出会いを求め大切にすることによって,研究を究極にまで昇華したいと念願している.

あとがき

 いままでに書きもらしたことを2,3補って「あとがき」に代えたい.
 学生の頃,外地旅順で約 6年間青春を過ごしているので外地コンプレックスはない.49歳のとき,アメリカ・スウェーデン・ドイツにそれぞれ 1 カ月,計 3カ月文部省在外研究員として勉強できたことは,その後の研究にとって素晴らしい引き金となった.シカゴ大学から客員教授として招聘され,ロスマン教授の下で種々ディスカッションに加わった.現在の土井教授がまだ助教授の頃で,ロスマン教授との橋渡しをしていただき楽しかった思い出がある.スウェーデンではルント大学のカールソン教授の下で本当に静かな研究生活 1カ月を持った.筆者のMTFに関する知識が研究室で重宝がられた.ドイツではミュンヘン大学ショーバー教授の下で波乱の 1カ月であった.MTF関係の研究者が多く,ディスカッションに事欠かなかったが,二つの事件に巻き込まれた.
 帰国間近い頃,夕食後の散歩中,スイスから来たという看護婦 2名に道を聞かれ,タクシーで誘導中,とあるカフェーで休む.そこのジュース代として約10万円請求され,腕っ節の強そうな兄さんに凄まれては如何ともし難く,ホテルまでついて来られて支払ったという情けない次第である.すぐショーバー教授に報告,親切な先生夫妻は車で夜を徹してその店を探してくれたが,とうとう分からずご迷惑をお掛けした.
 それから2,3日後ライン下りの切符を求めて駅からの帰途,瞬時に意識を失った.気が付いたのは一昼夜明けてであったが,そこはミュンヘン大学病院の病室であった.トラックにはねられたとのことであった.頭蓋底骨折の疑いで絶対安静,約半月入院,まだ退院できないというドクターの指示に拘わらず,帰心矢の如しで借金してファーストクラスで帰国した.お陰で世界で最高といわれたミュンヘン大学病院に患者として入院し,つぶさに設備・システム・人間関係などを身をもって体験し得たことは望外の収穫であった.しかし,この帰国間際のトラブルはいろんな方々にご迷惑をお掛けし申し訳ないと思っている.
 本学会に外地研修の制度がある.ぜひ多くの人々に参加していただきたい.とくにその期間研究成果が上がらなくていい.外地を見ることで,例えばナイアガラ瀑布を見るだけでもいい,四畳半的な自分の頭の中がすっかり払拭されるのを感じられるだろう.ぜひお勧めする.
 つぎは宗教についてである.筆者は若い頃から研究に宗教は無縁のものであると思っていた.ところが,デカルトの方法序説・パスカルのパンセを何度も何度も読むうちに,それに加齢が重なったのかも知れないが,彼らの神々に対する考え方に非常に興味を覚えるようになった.
 「デカルトの神はデカルトの自主的決断から展開されたものであり,パスカルの神はパスカルに迫って決断をなさしめた」といわれる.パスカルは神に選ばれ,デカルトは神を求めたと考えるようになった.「われ思う故に,われあり」の不動岩のようなデカルトに対し,「揺れ動く弱々しい 1本の葦」というパスカルに人間は限りなく迷いを繰り返しているように思う. 高年になるにつれ,母の神仏に向かって手を合わせていた後ろ姿が,自分のいまだに研究できる幸せに重なりあって,感謝の日々を送っている現在である.
 いずれにしても,及ぶべくもないわれわれは,天才的パスカルや秀才的デカルトの模倣はできそうにないが,せめてその生きて来た道を学び,一歩でも彼等の理想に近づくよう努力したいものである.

 

投稿者 lee : 2005年06月18日 11:25

「ディジタル画像情報時代 -画質とCADを中心に-」 藤田広志(岐阜大学大学院)

(日本放射線技術学会東海支部会誌 Vol.9,No.2, 1997. 1 から転写)

ディジタル画像情報時代 -画質とCADを中心に-

    岐阜大学大学院   藤田 広志

 

 1.はじめに
 オーディオも映像も,アナログからディジタルへ.これは,もうどうしようもない時代の流れである.そして,医用画像も決して例外ではない.では,アナログは古く,ディジタルは新しいというイメージがあるが,放射線科で日常取り扱うディジタル画像は,ほんとうに高画質なのであろうか? また,ディジタル画像情報を主体とした放射線科 (Digital Radiology Department) の近未来像はどのようなものであろうか? このような観点から,ディジタル画像の画質(文献1,2)とCAD (Computer-Aided Diagnosis) を中心に,以下に解説する.

2.画像のディジタル化と画質
 DR (Digital Radiography) システムの主な構成要素は,図1のようになる.X線検出器は,CR(コンピューテッド・ラジオグラフィ) では輝尽性蛍光体板(イメージングプレート)であり,DSAではII-TVに相当する.
 ディジタル化は,アナログデータの「標本化」(位置情報のディジタル化で,空間分解能に関係する)と「量子化」(濃度もしくは輝度情報のディジタル化で,濃度分解能に関係する)の二つの過程で実行される(図1).実際には,これに続く「符号化」があり,ここでは近似された整数データが2進数のディジタルデータで表され,コンピュータに入力される.これらの処理は,A/D変換器で実現される.コンピュータにデータが入力されれば,画像処理などアナログの世界では存在しなかった新しいディジタルの世界がある.

図1 DRシステムの主な構成要素とディジタル化の過程

 標本化に対しては標本化定理が存在し,これはどのようなサンプリング間隔(ここでは,簡単に“画素サイズ”と等価とする)でディジタル化するのかの目安を与えてくれる.現在,実用化されているCRでは,最小で0.1mm(100ミクロン)の画素サイズである.胸部の間質性疾患の診断では,0.15mmや0.2mmの画素サイズでは診断ができないとの指摘がしばしばされてきたが,最近のCRでは,胸部撮影用にも0.1mmが可能となった.しかし,これでもまだ必ずしもすべての診断領域で,ディジタル画像の空間分解能が十分というわけではない.例えば,乳房X線撮影などでは0.05mmの画素サイズのシステムが開発されようとしている.なお,ディジタル画像が表現できる最大の情報を空間周波数で表したのがナイキスト周波数であり,これはサンプリング間隔の2倍の逆数で計算される.例えば,0.1mmの画素サイズでは,そのナイキスト周波数は 5 cycles/mm となり,これよりも高い周波数成分の情報はすべて失われてしまう.
 標本化定理に従わないとき,エリアシング誤差(雑音とも呼ばれる)が生ずる.図2は,(a)の画像は“アナログ”に近い小さな画素によるディジタル画像で,(b)の画像は中程度の画素によるもの,(c)は大きな画素によるディジタル画像である.大きな画素になるに従って,高周波成分(左上方)の情報は失われ,また,エッジ部分がボケていたり,ぎざぎざした状態になっている.さらに,特に(c)の画像では,本来アナログ画像には存在しない低周波なパターン(これをエリアス成分といい,特に画像ではモアレ・パターンと呼ばれる)が顕著に出現している.このような極端なエリアス成分が実際の医療画像に現れることはまれではあるが,散乱線除去のグリッドとの位置関係(グリッドの方向や密度などが関係)によっては生ずるので,注意が必要である.一度発生したエリアス成分は,絶対に取り除くことができないからである.

図2 ディジタル化(標本化の相違)による情報の損失とエリアシングの発生

 二つの極端なマトリックス数(画像の縦と横に並んだ画素の数)と画質について,図3に示す.8×8のような極端な例では,胸部の画像であることさえ判定が困難になる!

図3 マトリックス数(空間分解能)と画質

 なお,以上は空間軸方向の標本化であるが,DSAなどのようにいわゆる動画像では,時間軸方向(時間分解能)の標本化を考慮する必要がある.これは,1秒間あたりに何コマの画像を収集するのかで,評価される.
 量子化については,10~12ビット,すなわち1024~4096の階調(濃淡の変化の数)で実行されるのが最近の装置の傾向であり,量子化に伴う誤差(量子化誤差)は無視できるといえる.実際,人間の目が識別できる濃淡の数は128~256程度といわれるが,X線画像に特有な淡い陰影の認識や画像処理のことを考慮して,このような階調数が採用されている.図4に,両極端な量子化と画質について示す.4階調ではとうてい医療診断はできない!

図4 量子化レベル数(濃度分解能)と画質

 なお,ディジタル化に伴う画質について簡単に上記に説明したが,従来のアナログ(増感紙-フィルム)系と同様に,ディジタル系においても「コントラスト」,「鮮鋭度(解像特性)」,「粒状性(ノイズ特性)」は画質の重要な3要素である.ただ,ディジタル系はシステム構造が少し複雑になり,これらの要素をより注意深く検討しなければならない.


3.CRの入出力特性
 ディジタル系における入出力特性として,入射線量(相対値)と画素値(ピクセル値)との関係がしばしば用いられ,これは“ディジタル特性曲線”と呼ばれる.あるCRで測定されたディジタル特性曲線の例を,図5に示す.図からわかるように,増感紙-フィルム系に比べてダイナミックレンジが非常に広く,また広い範囲にわたって直線性が成り立つことがわかる.

図5 CRのディジタル特性曲線の例(文献3)

 特性曲線の測定法は,従来の距離法(逆2乗法)でも測定できるが,ディジタル系に固有な点として,測定が簡便な「タイムスケール法」が用いられることがあげられる.これに対し,増感紙-フィルム系では,フィルムの相反則不軌の現象のためタイムスケール法は使用できなかった.なお,タイムスケール法の使用にあたっては,X線発生装置のタイマーと線量との関係をあらかじめ測定し,非線形性があれば補正する必要がある(文献4).
 このような特性曲線は,アナログ系の場合と同様に,MTFの測定時などに,データの「線形化」の手段にも用いられる.


4.CRの解像特性
 図6に,コンピュータに画像データが入力されるまでのCRにおける画像形成過程を示し,解像特性(MTF)の構成要因を示す.すなわち,イメージングプレート(IP)自身,イメージングプレートにレーザビームを照射して潜像を取り出す画像読取機,および電気系などである.

図6 CRの画像形成過程と画質への要因(文献5)

 イメージングプレート自身の解像特性は,増感紙の場合と同様に,蛍光体層におけるX線の散乱による広がりが原因である.読取機の解像特性では,レーザビームのもっているある大きさ(サンプリングアパーチャ)自身によるボケと,そのレーザビームのイメージングプレート内の蛍光体層における散乱による広がりが主な原因である(図7).この点は,従来のアナログ系と大きく異なる点である.電気系では,回路自身の特性や,エリアシングを除去するフィルタ(アンチエリアシング・フィルタ)などが,解像特性に影響する.

図7 レーザビームの広がりによるCR解像特性の劣化

 基本的に,ディジタル系では位置不変性が成り立たないので,MTFの理論を厳密には適応できない.例えば,図8に示すように,従来の手法でディジタル系のMTFを測定すると,エリアシングのためにナイキスト周波数を境にそれ以上の周波数領域でMTFが向上したり,それ以下の周波数でもある幅をもったMTFが得られる.これは,決して解像特性が良くなったことを意味しているわけではないので,注意が必要である.そのため,ディジタル系では,アナログ成分のMTFとサンプリングアパーチャのMTFの積で構成される「プリサンプリングMTF」で評価するのが,最も信頼性が高い解像特性の評価法であることがわかっている.

図8 ディジタルMTFの例(文献3)

 図9には,CRの高解像度のイメージングプレート(HRタイプ)のプリサンプリングMTFと,乳房撮影用の片面増感紙-フィルム系のMTFを示す.両者には大きな差が見られる.この差を補う一つの方法として,拡大撮影が考えられ,単純計算して求めると2.5倍の拡大撮影の導入によって,両者の特性はほぼ一致する.

図9 マンモグラムにおけるMTFと拡大撮影(文献3)

 なお,画像処理,特にCRで用いられる周波数処理(アンシャープマスク処理)によってこのような解像特性は強調される.


5.CRのノイズ特性
 図6には,CRにおけるノイズの構成要因も示してある.解像特性と同様,アナログ系の場合以上に構成要因が増え,複雑化しているのがわかる.すなわち,X線量子ノイズ(モトル),イメージングプレートの構造ノイズ,輝尽発光光の光量子ノイズ,電気系のノイズ,量子化ノイズなどが主な要因である.このうち,構造ノイズ,電気系ノイズ,量子化ノイズは入射線量に依存しない固定(一定)ノイズである.また,最終的には表示系のノイズなどもさらに加わる.これらの中では,CRにおいても患者被曝線量の観点から照射X線量を極力コントロールするため,「X線量子モトル」が支配的である点についてはアナログ系と変わりない.また,高線量領域では構造ノイズが支配的となり,この領域では線量を増加していもノイズ特性はまったく改善されないので,注意が必要である.
 なお,画像処理によって,これらのノイズの程度が強調されたり,逆に低減されたりする.


6.DRで考慮すべきその他の話題
 1995年のRSNA(北米放射線学会)では,新しいDRの新製品として,D社によってDR(この場合は,Direct Radiography と命名されていた)が発表され,話題になった(図10).これは,アモルファス・セレンを主なX線検出器に使用するもので(TFTアレーやセレンX線光コンダクタを使用),X線を直接電気信号に変換するため,上記のようなCRの解像特性の欠点(レーザビームの広がりによるボケ)が大きく解消される.実用化については,もう少し時間がかかるようであるが,この技術は将来有望視されており,CRの強敵になりそうである!

図10 新しいDRの構造(文献6)

 DR画像に関しては,上記の他に,画像圧縮の問題やCRT診断などがあげられる.0.1mmでサンプリングされた胸部X線画像は,1枚で約40MBにもなり,フロッピーディスクが約40枚分になる.現時点では,画質の劣化のまったくない圧縮である「可逆圧縮」しか容認されていないが,圧縮率はせいぜい1/3までである.今後,画質の劣化を伴うが圧縮率が大きい「非可逆圧縮」の採用が期待される.しかし,その導入には慎重な対応が望まれる.同じ圧縮率でも,圧縮の手法によって画質の劣化度が大きく異なる.最近話題のウェーブレット解析を適応した新しい圧縮方式なども期待されている.CRT診断については,表示輝度,表示の解像度(マトリックス数),表示スピードなどの問題がある.しかし,早晩,遠隔診断や集団検診など,今後限定された使用から始まりそうである.これらについては,現在厚生省が検討中のようであるが,十分な調査や研究が望まれる.
 ディジタル画像を使用する利点の一つに,画像処理の利用による医師の診断能の向上が期待される.だた,医用画像分野における本格的な役立つ画像処理の手法はまだ少ない.CTやDSA装置などで使用されているウィンドウ処理や,CRで使用されている階調処理と周波数処理ぐらいで,今後のさらなる研究・開発が望まれる.


7.CADへの期待
 いわゆる画像処理(まだ受動的であるといえる)に対して,もっと能動的(active)に画像処理技術を利用するものとして,コンピュータが直接的に医師の診断の一部にまで関与するものが考えられ,これがコンピュータ診断支援(CAD)システムである.従来,工学的には自動診断という研究テーマで研究が進められてきていたが,自動診断は当面期待できそうにない.これに対して,シカゴ大学の土井教授らが放射線医学領域に最近大きな影響力を与えているのがCADであり,これなら医師にも受け入れられるし,当面の工学的な技術力で実用化が期待できそうである.
 すなわち,CADとは診断に関与する「医師が最終的な診断を行う」ものである.ただし,このときにその医師が,コンピュータによる病変部位の自動検出結果や定量的な解析結果を,「第2の意見」として参考にするものである.コンピュータはいわば補助者としてのパートナーである.これによって特に期待される効果は,医師の病変の見落としによる誤診を防止することによって,診断の正確度が向上される点である.また,性能が良くなれば,集団検診における2重読影の一回分をコンピュータに任せることも期待される.
 これまでに,医用画像においてこのようなコンピュータによる画像処理のシステムが実用化されたケースは1件のみであり,これは血球の自動分類におけるものである(文献7).まして,放射線画像の分野では,このような成功例は全く見られない.すなわち,医師の診断に関与しうるシステムの構築は,技術的にも非常に難しいということである.
 しかし,最近のコンピュータ自身の処理スピードなどの性能の向上,ニューラルネットワークや遺伝的アルゴリズム(GA)などを応用した画像処理技術の進展,人工知能研究の進歩などによって,実用化が間近に期待できるX線画像分野におけるCADが出現してきた.これは,乳房X線写真におけるCADシステムであり,シカゴ大などを初めとする欧米諸国や,またわれわれを初めとする国内でも研究が進んでいる.
 図11は,岐阜大学におけるわれわれのグループが開発中のマンモグラムCADシステムの構成図であり,その処理の流れを図12に示す.詳細は文献8と9を参照されたい.

図11 岐阜大学マンモグラムCADシステムの構成図

図12 マンモグラムCADシステムの処理の流れ

 CAD研究が進んでいる診断領域は乳がん診断領域に限らず,肺がん(単純X写真,ヘリカルCT)や胃がんなど,さまざまな領域に広がっており,またX線に限らず超音波,MRI,RIなどいろいろある.今後の発展が楽しみな研究領域の一つである.


8.おわりに
 いわゆるデジタル(あえてここでは,ディジタルといわず訛った発音でデジタルとしよう)カメラ(略して,“デジカメ”)が最近よく売れており,また新製品が次々と発表されている.従来のアナログ(フィルム)に比べて,決して画質は良くない.しかし売れている.ここをよく考える必要がある.以前,DSAが開発されたときにも,画質はフィルムに比べて格段に悪かったが,使い良さ・便利さが普及の大きな要因になったようである.実際,デジカメを筆者も購入したが,記念撮影ぐらいには十分であり,いわゆるアルバムは電子アルバムになり,また画像処理によって修正ができる.また,電子メールに添付して世界中の誰にでも簡単に送って見せることができる.その場で撮影画像をチェックして,取り直しができ,音声の録音ができる機種もあるなど,画質の悪さを凌駕する因子はたくさんそろっている.売れると次にはさらに性能の良いものが開発され,フィルムの画質(特に鮮鋭度)に近づくのもそんなに遠くはないであろう(これはCRの現状と似ている).
 放射線医学の現場でも,情報化革命の波からとうてい逃れることはできない.従来の増感紙-フィルム系において,ユーザが画質を評価し,その結果メーカの品質改善が進んできたように,ディジタル画像についてもその画質はユーザによって絶えず評価し,問題があればメーカ側にクレームを付ける姿勢が望まれる.時代はアナログであれディジタルであれ,放射線被曝を伴う放射線画像1枚のもつ“重み”は非常に大きい.また,CADを初めとして,今後の医療分野の積極的な情報化には,大きな期待を伴うが,デメリットも存在し,これらを絶えず慎重に見守っていく現場のユーザの努力が望まれる.


文  献
藤田広志(編著):ディジタルラジオグラフィの画像評価 ,放射線医療技術学叢書 (7),日本放射線技術学会出版委員会発行,京都 (1994).
藤田広志(分担):画像工学(医用放射線科学講座第13巻),医歯薬出版,東京,印刷中 (1997).
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杜下淳次,藤田広志,坂本 清,他:コンピューテッドラジオグラフィの特性曲線の測定(II),医用画像情報学会雑誌,6 (1), 25-33 (1989).
E. Ogawa, S. Arakawa, M. Ishida, H. Kato : Quantitative Analysis of Imaging Performance for Computed Radiography Systems, Proc. of SPIE, Vol. 2432, 421-431 (1995).
D. L. Lee, L. K. Cheung and L. S. Jeromin : A New Digital Detector for Projection Radiography, Proc. of SPIE, Vol. 2432, 237-249 (1995).
日本医用画像工学会(監修):医用画像工学ハンドブック,篠原出版,東京 (1994) p.151 - p. 153 .
藤田広志,遠藤登喜子,原 武史,他:乳房X線写真におけるコンピュータ診断支援システムの開発,映像情報 (Medical),26 (6),357-365 (1996).
藤田広志:マンモグラフィのコンピュータ診断支援装置の原理,日本乳癌検診学会誌,5 (2),135-147 (1996).

連絡先
 〒501-1193 岐阜市柳戸1-1
 岐阜大学工学部応用情報学科
 教授 藤田広志
 TEL 058-293-2742,FAX 058-230-1895
 e-mail : fujita@fjt.info.gifu-u.ac.jp
 home page : http://www.fjt.info.gifu-u.ac.jp/
オリジナル出典:日本放射線技術学会東海支部会誌 Vol.9,No.2,1997. 1 (p.16-p.25)

 

投稿者 lee : 2005年06月18日 11:24

「胸部単純X線写真における コンピュータ支援診断 (Computer-Aided Diagnosis: CAD)」 桂川茂彦(日本文理大学)

(放射線医学物理 から転写)

胸部単純X線写真におけるコンピュータ支援診断
(Computer-Aided Diagnosis : CAD)

    日本文理大学  桂川 茂彦


 1. コンピュータ支援診断 (CAD) とは
 コンピュータ支援診断(computer-aided diagnosis, CAD)とはデジタル画像情報の定量化および分析をコンピュータを使って行い、その分析結果を“第2の意見”として画像診断に用いることで、放射線科医の診断を援助することである1-5).CADの一般的アプローチは次の2つに大別される.一つは,胸部画像における結節状陰影の検出に見られるように,病巣のありそうな場所をコンピュータが検出して表示し,見落としが起こらないように注意を喚起する.他の一つは,胸部写真での心胸郭比の計測のように,病巣についての定量的尺度を求めて,読影の際に客観的判断のための情報を提供することである.したがって,CADを用いることで,見落としによる誤診を減少させ,また,主観的判断による思い違いを防止することができれば,画像診断の正確度の向上と,再現性の改善が期待される.このように、CADの目的はコンピュータが放射線科医の役割を置き換えることではなく、放射線科医の読影がやりやすくなるように援助することにある.したがって、CADの基本的思想と方針は、従来から自動診断と呼ばれていたものとは根本的に異なるものであることに注意する必要がある.
 放射線画像情報の定量化の最初の試みは、1964年Meyersらによって胸部透視像のデジタル画像から心胸郭比を自動計測することによってなされた6).その後、1970年代からKrugerらを中心として、炭鉱夫塵肺症の重症度を自動分類する研究が数多くなされてきた7, 8).近年、デジタルラジオグラフィーおよび画像処理技術の急速な発展に伴い、CADの分野でも実用化を目的とした新しい研究開発が進められている.現在、世界中の多くの施設でCADに関する研究が行われているが、その対象は胸部単純写真では結節状陰影、間質性肺疾患、心肥大および気胸の検出、乳房画像では微小石灰化9-11)および腫瘤影の検出12-14)、血管造影像では血管狭窄率15)および血流量率の計測16)、骨画像では骨粗鬆症検出を目的とした骨梁パターンの計測17,18)などがある.特にシカゴ大学の土井らは幅広い領域の画像に対するCADシステムの開発に関する優れた研究を数多く行い、1994年には乳房撮影像に対するCADの臨床用“インテリジェント”ワークステーションを試作し現在臨床評価を継続して行っている.彼等は臨床で撮影された乳房画像に対して毎日微小石灰化および腫瘤影検出プログラムを走らせ、これまでに合計約4000症例16000枚の画像を分析している.この中の最初の約1000例の患者群から7症例の異常陰影を検出し、そのすべてがバイオプシーによって乳癌であることが確認されている.また、1画像当たりの平均無病誤診率は微小石灰化が0.9個、腫瘤影が1.4個であったと報告している.この結果は現在の乳房画像に対するCAD技術でも、かなりの程度臨床に役立つことを意味しており、これからのCADの研究に明るい未来を示唆した大変意義深い結果であると思われる.
 胸部画像に対するCADは、乳房画像と比較して画像が極端に複雑であることなどの理由から、実用化の研究は一歩遅れている.しかし、日本では肺癌の早期発見を目的とした集団検診が各地で行われているため、胸部画像に対するCADの実用化が強く望まれており、最近では、スパイラルCTを用いた集団検診画像に対する結節状陰影の検出を目的としたCADの研究も行われている.ここでは、胸部単純X線写真における結節状陰影、間質性肺疾患、心肥大および気胸の検出を目的とした、我々が用いているCADの手法の概略とその現状を述べる.

2. ハードウエアシステム構成
 CADに用いられる基本的なハードウエアーシステム構成をFig. 1に示す. スクリーン・フィルム系で撮像された放射線画像を、市販のフィルムデジタイザー(例えばコニカ社製LD4500)によってデジタル化する場合、ピクセル寸法は0.05 mmから0.2 mm、階調数は1024(10 bits)から4096 (12 bits)の範囲でデジタル化が可能である.また、写真濃度は0.0から3.0もしくは3.5の範囲をリニアーにデジタル化する場合が多い.一般に、より小さなピクセル寸法、かつ、より大きい階調数でデジタル化すれば、オリジナル像に忠実な画像が得られるが、ディスク容量や演算速度も考慮しなければならない.対象となる疾患の性質によりこれらのパラメータは変化し、乳房撮影像における微小石灰化の検出の場合は、ピクセル寸法が0.05 mm、また、胸部写真の場合にはピクセル寸法が0.2 mmが普通である.したがって、大角サイズの胸部写真をピクセル寸法0.2 mmでデジタル化した場合、8MBの記憶スペースがコンピュータ内部で必要となる.また、イメージングプレートを使ったCR画像を入力画像として使うことももちろん出来るが、オートモードで撮影されたCR画像のピクセル値は、イメージングプレートからの発光量に比例する値に変換しなければ、画像間の相互比較が困難になる場合がある.

Fig. 1 Schemetic diagram of CAD hardware system.

 画像処理および解析のためには高速のコンピュータが必要となる.主メモリーは少なくとも64MB、磁気ディスクの容量は3GB以上が望ましい.通常ワークステーション(例えばSun Microsystems社Sparc 10など)を使うことが多いが、最近ではパソコンの高性能化、低価格化によって比較的容易にコンピュータ環境が整えられるようになってきた.また、CADの出力結果の表示には複数台のCRTモニターと記録のためのレーザープリンターのあることが望ましい.

3. 結節状陰影の検出
 胸部単純写真において、肺腫瘍などに起因する結節状陰影を放射線科医が見落とす確率は約30%近くもあると報告されている19,20).さらに、この見落とされた結節状陰影のほとんどのものは、後日その存在が指摘されると認識できるものであることも分かっている.見落としの原因には多くの因子が含まれるが、基本的には胸部写真を読影する際の放射線科医の”観察者としての特性”、あるいは”人間的エラー”が主要な寄与をしていると考えられる.特に、結節状陰影の周囲にある肋骨や肺血管などの胸部写真に含まれる正常構造が、結節状陰影をカムフラージュ(偽装)してしまうために、結節状陰影が目立たなくなってしまい、その結果見落としが起こりやすくなる.また、明らかな異常を一つ見つけたとき、それ以外の異常陰影を見つけるための読影をやめてしまう場合があることも見落としの原因になっていると言われている.
 そこで、胸部写真における結節状陰影の検出に関するCADの目的は、コンピュータが結節状陰影と疑われる位置を自動検出して示し、注意を喚起することにある.最終的には放射線科医が真の結節状陰影か否かを判断するが、注意を喚起されることによって、見落としを減少させることが可能となる.結節状陰影の自動検出には円形パターンの探索が中心技術となるが、ここでは差分像を用いた方法21-24)について概略を説明する(Fig. 2).

Fig. 2 Overall scheme of lung nodule detection

 差分法では、1枚の胸部写真からマッチドフィルターにより結節状陰影のコントラストを増強した画像と、平滑化フィルターによりコントラストを減弱した画像を作り2つの画像間の差分をとる.マッチドフィルターは直径9mmの結節状陰影のコントラスト対雑音比が最大となるように設計されている.このような信号の増強、平滑および差分を組み合わせた周波数空間でのフィルターをFig. 3に示す.差分像では肋骨などの胸部正常構造のコントラストはかなり低下するが、逆に、結節状陰影のコントラストは原画像よりも強調されることになる.このことが可能なのは、像処理によって選択的に信号の増強と減弱という相反する作用が行われる一方、これらの処理画像に含まれる低周波のバックグランド構造がほぼ同等に保たれているからである.

Fig. 3 The difference-image filter in the spatial frequency domain.

 差分像に対する結節状陰影の特徴抽出は、しきい値処理と陰影の幾何学的形状計測が基本となる.まず、Fig. 4に示すように差分像に対して多数回のしきい値処理を行う.ここで、しきい値は差分画像のピクセル値のヒストグラムの面積比率で表現している.すなわち、Fig. 4 (a)は差分像ヒストグラムの上位3%に含まれるピクセル値による像を示している. Fig. 4では矢印をつけた2個が真の結節状陰影であるが、それ以外にも胸郭、肺血管などの陰影がしきい値処理によって描出されている.これらの陰影から結節状候補陰影を絞り込むために、陰影の有効直径、円形度および不整度の変化を調べる.各種の形状パラメータはFig. 5に定義されており、たとえば、円形度は陰影の面積と等しい円(その直径を有効直径という)の中心を、陰影の中心に置いたときの、陰影と円の重なった面積の比率によって定義される.Fig. 6およびFig. 7に結節状陰影および血管影に対する各しきい値の有効直径と円形度の変化をそれぞれ示す.結節状陰影はしきい値の増大とともに有効直径は緩やかに変化し、また、比較的高い円形度を保持しているのに対し、血管影はしきい値16%(遷移点)で急激な有効直径の増加と円形度の低下が見られる.このように陰影の幾何学的形状をモニターすることで結節状候補陰影を絞り込むことができる.実際には、このようなモニターを差分画像のみならず原画像に対しても行っており、最終的に、多数の真の結節状陰影でトレーニングされたニューラルネットワークを使って候補陰影をさらに絞り込んでいる.

Fig. 4 Illustration of the multiple-level thresholding for a difference image. Circles and arrows indicate candidates and true nodules, respectively. All candidates of non-nodules in this case were removed by the rule-based method and the neural networks.

Fig. 5 The definition of effective diameter, circularity and irregularity for an island.

Fig. 6 Dependence of the effective diameter on the threshold levelfor a nodule and a non-nodule

Fig. 7 Dependence of the circularity on the threshold levelfor a nodule and a non-nodule.

 自動検出された結節状陰影は、CRTモニター上の胸部像に重ねて表示される.この手法を100例の正常胸部写真、および、CTで確認された直径5ー30mmの結節状陰影100例、合計200例の胸部写真に適用した結果は、有病正診率が約75%、無病誤診率は約1.0(個/画像)であった.

4. 間質性肺疾患の検出
 胸部単純写真における間質性肺疾患の診断は、放射線画像診断のなかでは最も困難な問題の一つといわれている.その理由は間質性浸潤影のコントラストがきわめて低く、そのパターンが複雑であることと、さらに、それらのパターンの記述と名称が、粒状影とか網状影などと、主観的なものであり、客観的に定義されていないことなどである25,26).そこで、もし肺野テクスチャー (texture) パターンを客観的に定量化できるような方法があれば、主観性が減少し、画像診断の正確さおよび再現性が改善されることが期待される.したがって、間質性肺疾患の検出に関するCADの目的は、間質性浸潤影の特徴を定量的尺度(テクスチャー尺度)で表現し、これを放射線科医の画像診断のための客観的材料として提供することである.
 浸潤影の特徴量の選択には,間質性肺疾患を持った異常肺を高感度で検出できる特徴量を選択することが最も重要であるが,その特徴量が人間の視覚で理解できることも,CADの実用化には極めて大切である.なぜなら,放射線科医の診断結果とコンピュータの解析結果に矛盾が生じた場合,理解不可能な特徴量を使っておれば,矛盾の原因究明が困難になるからである.特徴量を求めるためのテクスチャー解析の手法としては,写真濃度ヒストグラム,同時生起行列,差分統計量,ランレングス行列,パワースペクトルを用いる方法などが使われている.ここでは肺野テクスチャーパターンのパワースペクトルから求めたテクスチャー尺度を用いて、間質性肺疾患の検出を行う手法(Fig. 8)について述べる27-40).

Fig. 8 Overall scheme of lung texture analysis for detection and characterizatiomn of interstitial disease.

 まず、解析の対象となる1辺 約6 mmの正方形関心領域 (region of interest, ROI) を、両肺野の外側に出来るだけ数多く設定する.しかし、肋骨の鋭いエッジを含んだROIは、肋間や肋骨と重なるROIとは明らかに異なるtextureを有するので、濃度勾配のヒストグラムの均一性を分析することにより除外する.すなわち、肋骨エッジを含むROIの濃度勾配ヒストグラムは、肋骨の走行方向に偏るために均一性が低下するが、肋骨エッジを含まないROIの濃度勾配ヒストグラムの均一性は高くなる.次に、残された約300個のROIに対してバックグランド補正を行う.一般に、肺野の濃度変化は肺、胸壁の構造による大まかな濃度変化(バックグランド)、および間質性浸潤影に関係のある微細なテクスチャーに原因する濃度変化から成り立っている.したがって、間質性肺疾患を感度良く検出するためには、肺野全体の濃度変化から微細変動成分だけを抽出するバックグランド補正が必要となる.バックグランド補正は、大まかな濃度変化を最小二乗法を使って2次元面関数近似で得られるバックグランドを、全体の濃度変化から差し引くことで行う.さらに、バックグランド補正されたROIの2次元フーリエ変換から求まるパワースペクトルを眼のレスポンス関数41)、V(u, v)、を用いてフィルタリングする. 眼のレスポンス関数は次式で求められ、胸部写真に含まれる高周波の放射線モトルと、低周波の残留バックグランド成分を抑制するバンドパスフィルターである.

ここで、u0とv0は観察距離Dを25cmとしたとき、V(u, v)が最大となる空間周波数である.Fig. 9に1.5 cycles/mmで最大となるような眼のレスポンス関数を示す.また、正常肺と間質性肺疾患を持つ異常肺から選択したROIに対するフィルター後のパワースペクトルをFig. 10に示した.

Fig. 9 Visual system response of the human observer

Fig. 10 Filtered power spectra of normal lung (left side) and abnormal lung (right side)

 最後に、フィルタリングされたパワースペクトルから、テクスチャー尺度としてrms変動値 (root mean square variation) 、R、および1次モーメント、M、が決定される.RとMはそれぞれ次式で表わされ、肺野テクスチャーの濃度変動の大きさと粗さ(または細かさ)を表現する量である.

ここで,T(u, v)は肺野テクスチャーのフーリエ変換である.
 テクスチャー解析から得られた2つの尺度は,次に述べる方法を用いて正常肺と間質性肺疾患を持った異常肺に自動分類するために使用される.まず,2つのテクスチャー尺度は,データベースに含まれる多数の正常肺から求められたテクスチャー尺度の平均値と標準偏差を用いて正規化される.次に,正規化された2つのテクスチャー尺度と,正常肺の平均のテクスチャー尺度間の距離と対応する単一尺度を求め,それがしきい値を超えるものを異常ROIとして選び出す.最後に,選択された異常ROIの個数が肺野全体のROI の20%以上であれば,異常肺として分類される.自動分類の結果はCRT上の胸部像に重ねたシンボルで表わされる.十字、円、四角および六角形のシンボルは、それぞれ正常、粒状、網状および網粒状陰影に対応し、シンボルの大きさは重症度を表わしている.シンボルの種類とサイズは個々のROIのテクスチャー尺度とデータベースとの比較によって決定している.本法をデータベースに含まれる100例の正常肺と100例の間質性肺疾患を持った異常肺について適用した結果、有病正診率95%、無病正診率95%であった.

5. 心臓および肺野の形状計測
 心肥大を胸部単純写真で読影する場合、明らかな心肥大は容易に検出できるが、わずかな心臓の大きさの変化は肉眼では検出が困難である.したがって、胸部単純写真における心肥大の客観的判断基準として、心胸郭比の計測が広く行われてきた.このような理由から、心臓の大きさの自動計測は最も古くから始められた医用画像処理における研究テーマであった.心臓の形状計測においては、いかにして心臓の辺縁を正確に検出するかが重要な技術であり、ここではモデル関数を用いる方法を概説する42, 43).
 心臓全体を含む長方形ROIを、胸部写真の垂直および水平方向のsignature(ある幅をもった直線上での加算されたピクセル値の分布)を用いて設定する.このROI内で左右肺野と心陰影の境界および横隔膜辺縁を1次微分の大きさと方向を分析しながら検出する.このとき、心臓の上端と下端の境界は写真上に描出されてないことが多いので、検出された左右の境界点データについてモデル関数を用いて近似し、心臓全体の辺縁を描出する.近似に用いたモデル関数の決定は次のようにして行った.心陰影の形状が異なる12例の胸部写真を選び、4人の経験豊富な放射線科医がそれぞれ自分自身の主観的判断に基づいて心臓の境界をトレースする.これらのトレースは心臓の左右端の境界では良く一致するが、上下の境界ではかなりの変動がある.次に、4人の平均のトレースを求め、その閉曲線の中心を基準とする極座標を使った周波数解析で、放射線科医がトレースした心臓の形を分析した.その結果、変形した楕円で近似するのが最も誤差が小さくなることが分かったため、結局、モデル関数として以下に示すような振幅と位相が同時に変化する余弦関数を使用した.

ここで r(θ) は極座標で角度θのときの中心から心陰影境界までの距離を示し、r0, r1, α およびφはパラメータである. このような心臓境界の自動検出を46例の胸部写真に対して行い、その結果を放射線科医が主観的に評価したところ、ほとんどすべてが良好であるという結果が得られている.
 一方、肺野および胸郭の境界も水平方向のsignatureと微分演算子を用いて検出され、Fig. 11に示す各部のパラメータが計測される.これらの中で、放射線科医がマニュアルで求めた心胸郭比と、コンピュータが自動計測した心胸郭比の間には、相関係数0.91の強い正の相関があることが分かり、コンピュータの自動計測はマニュアル法と良い一致を示している.

Fig. 11 Size parameters for the heart and lungs


6. 気胸の検出
 気胸は胸部単純写真において重要な異常陰影であるが、しばしば肋骨あるいは鎖骨との重なりのために診断が困難となることがある.気胸の画像上の特徴的陰影は胸郭に沿った曲線であるから、気胸の自動検出には細い滑らかな曲線の検出技術が必要である.まず、気胸の出現頻度の高い上肺野にROIを設け、その中で微分演算子から求めた濃度勾配の方向が、胸郭外側の形状から予測した方向と同じ方向をもつ画素のみを選択的に強調する.ROIの中に含まれる肋骨のエッジは別に検出して除外し、最終的に気胸による微細な曲線がHough変換によって検出される.Hough変換とは直線、円、楕円、放物線などパラメータで記述できる図形を画像中から検出するための手法である.この方法を60例の胸部写真に適用した結果は、有病正診率約80%、無病正診率約70%と報告されている44).


7. おわりに
 ここで述べた胸部単純X線写真における結節状陰影、間質性肺疾患、心肥大および気胸の自動検出の現状をTable 1に示す. Tableに示した計算時間はハードウエアーの進歩にともない、確実に短縮されることが期待される.しかし、 これらの検出能は臨床例から選択された正常例と異常例をほぼ同数含んでいるデータベースに対して適応した結果であることに注意する必要がある.実際の臨床現場における異常例の存在確率はこれよりもはるかに少なく、その様な環境に対しての検出能を求めることが重要であるが、そのためには胸部CADの臨床用“インテリジェント”ワークステーションを試作し、連続的かつ長期に亘っての評価を行わなければならない. 現在進められている病院間の画像通信ネットワークなどの進展と相俟って、このような大規模データベースは構築しやすくなっており、胸部CADの今後の大きな発展が予想される.

Table 1 Current levels of performances of chest CAD schemes.
  Sensitivity(%) Specificity(%) CPU Time(sec)
Lung Nodule 75 1.0/image * 25.0
Interstitial Disease 95 95 0.3
Cardiomegaly 90 90 0.3
Pneumothorax 80 70 17.0

*number of false positives


【参考文献】

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投稿者 lee : 2005年06月18日 11:09

「歯科領域のX線撮影」 丹羽克味(明海大学歯学部)

歯科領域のX線撮影

    明海大学歯学部歯科放射線学講座 丹羽克味


I はじめに

II X線撮影法
 II―1 口内法X線撮影
  II―1―1 X線撮影法     1) 2等分法撮影,2) 平行法撮影
  II―1―2 X線発生装置
 II―2 回転パノラマX線撮影
  II―2―1 X線撮影原理
  II―2―2 X線発生装置

III フィルム記録系
 III―1 口内法X線フィルム
  III―1―1 フィルムの構造
  III―1―2 フィルムの包装
  III―1―3 フィルムの種類とサイズ
  III―1―4 フィルムの感度
 III―2 回転パノラマX線撮影用増感紙フィルム記録系

IV 現像処理
 IV―1 歯科用自動現像機
 IV―2 インスタント現像

V 口内法X線撮影系のMTF
 V―1 撮影の幾何学配置における焦点の影響
 V―2 歯科用ノンスクリーンフィルムのMTF
 V―3 斜入撮影の影響

VI 回転パノラマX線撮影系のMTF
 VI―1 曲面断層撮影のLSF
 VI―2 回転パノラマX線撮影装置の回転軸ブレのMTF

VII あとがき


I はじめに
 口腔内の軟組織から発生する疾患は,そのほとんどが直視でき生検が容易であることから,歯科領域のX線診断は歯や骨といった硬組織の診断が大半である.X線撮影の種類はもっぱら口内法X線撮影と回転パノラマX線撮影と呼ばれる口外法X線撮影によって日常の診療が行れている.その他CTやMRIといった装置は大学病院や大病院では使用されことがあっても,一般の歯科診療所では全く利用されない.そこで本章においては口内法X線撮影と回転パノラマX線撮影に限って稿を起こすことにする.


II X線撮影
  II―1 口内法X線撮影
 口内法X線撮影(口内法撮影と略す)とは口内法X線フィルム(口内法フィルムと略す)を口腔内の歯の位置に患者の指で固定し,口腔外よりX線を照射し,歯および周囲組織の撮影を行う方法である.口内法撮影に利用されるフィルムは3cm×4cmの大きさで増感紙を使用しないノンスクリーンフィルムである.図1にその撮影中の写真を示す.


図1.口内法X線撮影

  II―1―1 X線撮影法
 口内法撮影には2つの撮影法が用いられている.それらは2等分法撮影と平行法撮影と呼ばれる方法である.いずれの方法もフィルムに歯の実長を写しだすためのものである.

    1)2等分法撮影
 図2の左に撮影法を示す.この方法は歯軸とフィルムのなす角の2等分線に垂直にX線を入射させる方法であり,1904年にPriceの発案とも,1907年にCieszynskiが始めたともいわれている.ここで歯軸とは口腔内に萌出している歯冠から想定される軸である.口内法撮影の難しさは,歯軸とフィルムのなす角の2等分線はまったく口腔外で想像される線であり,これに垂直にX線を照射して写されたX線写真は歯の長さを正確には現わしていないことである.さらに入射角度を間違えば根尖がフィルムからはみ出してしまい,全く診断に供さないものとなる場合もある.そこで口内法撮影では歯の全体像が写っていれば,良しとするものである.
歯の長さを正確に測定したい場合には,金属性の基準となるもの,たとえばリーマと呼ばれる細い針を歯に挿入して撮影し,リーマの既知の長さから歯の実長を割り出すことによって求められる.


図2.口内法X線撮影法

    2)平行法撮影
 平行法はフィルムを歯軸と平行に保持して,主線を歯軸に垂直に照射する方法である.図2の右に摸式図で示す.この方法は1947年Fitzgeraldによって始められた.この場合写された歯の長さは拡大率のみ考慮すれば実長計算は容易であるが,フィルムを口腔内に歯軸と平行に固定するための特別な装置が必要となり,撮影操作が煩雑である.現在ほとんどの診療所でこの方法は用いられず,もっぱら2等分法によって撮影されている.

  II―1―2 X線発生装置
 X線装置は固定焦点型X線管が用いられ自己整流方式の発生装置である.焦点サイズは実効焦点で0.8mm×0.8mmが主であるが,もう少し小さいものもある.管電流は7~10mAで,照射時間は0.2~1.0秒である.焦点皮膚間距離は約20cmで,照射野は照射筒の先端で6cmφ,皮膚面では7~8 cmφとなる.皮膚線量は空中線量で200~400mRである.局所であるが診断用X線としては大線量が照射されるのはノンスクリーンフィルムのためである.

  II―2 回転パノラマX線撮影
 図3に回転パノラマX線撮影(パノラマ撮影と略す)によって撮影されたX線写真を示す.この方法は一枚の写真で歯,歯槽骨ならびにその周辺の骨の状態をすべて写しだすことができる撮影法である.


図3.回転パノラマX線写真

  II―2―1 X線撮影原理
 パノラマ撮影の原理を図4に示す.2つの回転テーブルがあり,同じ角速度で回転しているとする.1つのテーブルには被写体がおかれ,他のテーブルにはフィルムが円筒状に置かれているとする.スリットの間を通してX線が照射されている間にターンテーブルが一回転すると,円筒状のフィルムに写される像は,被写体内でフィルムと同じ線速度となる部分,すなわち同一半径上にあるものが鮮明に写されることになる.そしてこの円周から外れた位置の像は横方向の線速度の違いからボケ像となる.したがってこの撮影法は断層撮影である.


図4.回転パノラマX線撮影の原理

この断層撮影法は従来の多軌道断層撮影のように平面の断層像を得るものではないため,これと区別して曲面断層撮影法とよばれる.曲面断層撮影法の原理は1939年Heckmannによって提唱され,1961年Paateroによって実用化された.今日臨床で使用されている装置は曲面断層の断層円孤を3つ組み合わせ,それぞれの移行部をスムーズに移動するようにし,歯列に断層面を合わせた3軸変換方式である.図5にその様相を示す.本法は縦長のスリット状X線束を用いる.X線管球側の1次スリットは1~2mm×4~5cmで,フィルム面での2次スリットは7~10mm×15cmである.パノラマ撮影では横方向の画像のみが断層像を呈し,縦方向は断層像ではない,したがって振子型の平面断層像と似た像となる.断層厚さを左右する因子は,スリット幅と回転半径にある.スリット幅を広げるほど,また回転半径を小さくするほど断層厚は薄くなる.


図5.3軸変換方式

  II―2―2 X線発生装置
 図6に撮影中のパノラマ撮影をしめす.管電圧は70~90kV,管電流は5~10mA,固定焦点型X線管が主に使用され,焦点サイズは0.5mm×0.5mm~0.7mm×0.7mmで50Hzの交流をそのまま用いる自己整流方式である.一回の撮影に15~17秒の照射時間を要する.新しい装置では数kHzから数十kHzの高周波が用いられているものもある.撮影はX線管ヘッドが患者の顔の側面から頭部後方を経て反対側の顔の側面まで約270°を回転する.フィルムはヘッドと対向して患者の顔面前方を回転し撮影する.皮膚面での空中線量は約50mRであるが頭部内の回転中心部では数百mRと大きくなる.


図6.撮影中の回転パノラマX線撮影


III フィルム記録系
 III―1 口内法X線フィルム
  
III―1―1 フィルムの構造
 図7に歯科用ノンスクリーンフィルムの断面を模式図で示す.フィルムベースは約180μmと厚く,乳剤層も5~15μmと厚い.両面塗付乳剤フィルムである.ゼラチン層内の臭化銀粒子の含有量は増感紙フィルム系に用いられるフィルムより多く,そのため一部の歯科用フィルムでは最高濃度が6.0以上を示す.フィルムのガンマーは現像液にもよるが3~4を示す.乳剤層の厚いのは感度の向上のためであり,フィルムベースの厚いのは口腔内でフイルムを固定する際にフィルムを彎曲させないためである.


図7.歯科用ノンスクリーンフィルムの構造

  III―1―2 フィルムの包装
 図8に包装から取り出したフィルムの写真を示す.包装はビニール製で防湿されており,1包装に1枚ないし2枚のフィルムが入っている.1包装に2枚入れる理由は,1枚をスペアとして保存するためである.1枚のフィルムで吸収されるX線量は約8%である.したがって2枚包装フィルムでの1枚目と2枚目のフィルムには画質の差はないものと考えられている.鉛箔の厚さは60~70μmで,その役割はフィルム透過後のX線を吸収し被曝線量の軽減にある.


図8.開封された口内法フィルム

  III―1―3 フィルムの種類とサイズ
 表1に口内法フィルムの種類とサイズを示す.日本では標準型,小児型と咬合型が使用されており,咬翼型は使用されていない.

表1.口内法X線フィルムの種類とサイズ

  III―1―4 フィルムの感度
 ISO規格によって口内法フィルムの感度分類がなされている.表2にそれを示す.この感度は特性曲線において実濃度で1.0を得るのに必要な線量[R]の逆数から求められる.現在国内では感度DグループとEグループのフィルムが使用されている.図9にコダック社製ノンスクリーンフィルムの特性曲線を示す.このフィルムは感度Eグループに属する.EグループのフィルムはDグループのフィルムに対して2倍の感度を持っている.


表2.口内法X線フィルムの感度分類


図9.口内法X線フィルムの特性曲線

 III―2 回転パノラマX線撮影用増感紙フィルム記録系
 パノラマ撮影に使用される増感紙は通常医療に用いられる高感度増感紙である.これを図10に示すようなハードな平面カセッテや曲面カセッテに入れて用いる場合と,ビニール製のフレキシブルカセッテに入れて,装置の円筒型のフィルムホルダーに固定して用いる場合がある.ハードなカセッテの場合は増感紙とフィルムの密着は完全であるが,フレキシブルカセッテでは不完全である.そこでフレキシブルカセッテをフィルムホルダーに固定するのに,カセッテの外側をビニールの薄いシートで圧迫して密着性を兼ねて固定するようにしている.フィルムのサイズは四つ切サイズを半分にした15cm×30cmのものが用いられている.


図10.回転パノラマX線撮影用カセッテ

IV 現像処理
 歯科で利用されるフィルムは,歯科用ノンスクリーンフィルムとパノラマ撮影用フィルムで,四つ切りより大きなフィルムは用いられない.この2種類のフィルムが現像出来る歯科用自動現像機が独自に開発されている.

 IV―1 歯科用自動現像機
 図11に代表的な歯科用自動現像機を示す.構造的には医科で使用される大型自現機のミニチュア型でローラタイプである.しかしこの自現機の特徴はノンスクリーンフィルムの厚い乳剤層の現像処理を完全に行わせるため,極めて処理時間が長いことである.大部分の自現機では現像から乾燥までに5~6分を要する.それでも時として定着や水洗が不完全になり,数年後にはフィルムが汚れたりコントラストの低下を来すことがある.現像槽や定着槽の容量は3~5リットルと小さく,現像温度を28~33°Cで行うため,特に夏季には現像液の疲労が激しく,2~3週毎に液の交換が必要となる.このため経日的な現像の安定性は極めて悪い.


図11.歯科用自動現像機

 IV―2 インスタント現像
 1枚包装のノンスクリーンフィルムを特殊なビニールで包装し,この中に注射器を利用して現像液を注入し,包装内で現像処理を行わせる方法がある.これを通称インスタント現像と呼んでいる.その現像中の写真を図12に示す.現像処理は一浴現像であり新しいものではないが,特別な暗室や自現機を必要とせず簡便である.しかし一浴現像であるがゆえに感度やコントラストに難点がある.また多数枚のフィルムを同時に処理しようとする場合には,かえって不便である.


図12.インスタント現像

V 口内法X線撮影系のMTF
 口内法撮影によって診断される疾患は歯槽膿漏や虫歯などである.歯槽膿漏を診断する上で重要な組織である歯根膜は歯根と顎骨との間に存在する200~400μmの空隙であり,顎骨骨梁の幅は300~500μmである.これらの変化を写し出すため高分解能の画像が要求されている.そのためフィルムは増感紙を使用しないノンスクリーンタイプのフィルムが使用される.虫歯は歯のエナメル質内や象牙質内に出来た小さな脱灰部をわずかなコントラスト差によって診断するためフィルムは高分解能であるとともにハイガンマーとなっている.


 V―1 撮影の幾何学配置における焦点の影響
 口内法撮影の幾何学配置は,焦点被写体間距離が25~30cm,被写体フィルム間距離は1~2cmである.そこで焦点サイズが0.8mm×0.8mmであるので,1次元で考えて0.8mmの矩形関数とすると,焦点サイズが口内法撮影の幾何学配置でフィルムに半影として投影されボケに関与すると,このLSFは最大で約60μmの矩形関数となる.LSFのフーリエ変換から求められるMTFはSin(2π0.03ω)/(2π0.03ω)となり,カットオフ周波数は被写体上の空間周波数としてほぼ10Lp/mmにある.したがって現在臨床で使用されている口内法撮影装置の幾何学配置からは,焦点サイズが画像におよぼす影響はあまり問題にならない.

 V―2 歯科用ノンスクリーンフィルムのMTF
 歯科用ノンスクリーンフィルムのMTFについてもとめる.ノンスクリーンフィルムであるので,スリット法ではスリット幅(10μm)の誤差が入り,その補正が問題となるので,ナイフエッジ法により求めた.ナイフエッジをフィルムに密着して撮影を行い,通法どおり処理したもので,詳細は割愛する.使用したフィルムはコダック社製エクタスピードプラスフィルムで,X線入射方向に対して前面の乳剤層のみについて測定した.裏面乳剤層は現像処理後,測定前に次亜塩素酸ソーダで剥離した.濃度測定はコニカ社製マイクロデンシトメータPDM-5Bを使用し,アパーチヤは5×750μmを使用した.5μmの開口補正を行った後の結果を図13に示す.歯科用ノンスクリーンフィルムの片面乳剤での解像力はほぼ30Lp/mmにある.その他の歯科用ノンスクリーンフィルムの解像力も同程度である.


図13.口内法X線フィルムのMTF

 V―3 斜入撮影の影響
 歯科用ノンスクリーンフィルムは,前述したごとくフィルムベースや乳剤層が厚く,また2等分法撮影のためX線の入射はフィルム面に垂直ではない.両面乳剤フィルムのMTF測定では,前後面乳剤層ともLSFの形状に差のないことから,片面乳剤層で求められたLSFをX線の入射角度によって前後面乳剤層による隔たりの距離だけ離して2つのLSFの合成から求めることができる.両面乳剤の口内法フィルムを用いて,歯軸とフィルムとのなす角度とMTFの関係について実験によって求めたものを図14示す.焦点被写体間距離25cm, 被写体フィルム間距離3cmとした幾何学配置で,被写体上の空間周波数で求めたものである.
 口内法撮影では歯軸とフィルムの角度が30°以上になると実際の被写体と写された被写体の形に違いがみられ,60°以上になると両面乳剤層によるMTFの劣化から,細かな診断を行う場合に障害をうけるようになる.


図14.2等分法撮影における歯軸とフィルムのなす角度とMTF

VI 回転パノラマX線撮影系のMTF
 VI―1 曲面断層撮影のLSF
 パノラマ撮影法は断層撮影であり,回転軸などの機械的なブレがない限り,断層面上のMTFは増感紙フィルム系のMTFそのものである.ここで曲面断層撮影において被写体内の任意の位置にある像のボケを考える.増感紙フィルム系にはボケがないと仮定し,図15に示すパノラマ撮影の基本形である1軸回転につい解析する.ある回転半径r上にある被写体の関数d0(x)がd(x)としてフィルムに写されるとすると,d(x)は理論的に(1)式のようになる.


図15.曲面断層撮影の基本配置


ここでR,rはフィルムならびに被写体の回転半径,wf,w0はフィルムならびに被写体の角速度,Wは被写体の置かれている円周上をX線ビーム幅の両端が横切る2点を回転中心よりのぞんだ角,bfはその両点間の距離すなわちスリット幅である.Π(x/a)は幅aの矩形関数を示すものとし,*はコンボリュージョン積分を意味する.
まず被写体が断層面上にある場合は,被写体の線速度とフィルムの線速度が一致することから,Rwf=rw0となる.これを(1)式に代入し整理すると,(1)式は(2)式のようになる.
rWは半径rの円周上でスリット幅内の円弧の長さであり,スリット幅が充分狭い場合には,rW=bfとみなすことができる.そこで(2)式は(3)式となる.

はデルタ関数である.したがって断層面上においてのボケはないことになる.
つぎにd0(x)をデルタ関数とすると,(1)式は(4)式のようになる.

(4)式は曲面断層撮影のLSFである.これをLo(x)とし,パノラマ撮影において,被写体内のあらゆる位置における総合のLSFをもとめる.増感紙フィルム記録系のLSFをLs(x)とし,装置の機械的なブレによるLSFをLm(x)とすると,総合のLSFは(5)式のようになる.
総合のLSF= Lo(x) * Ls(x) * Lm(x)           ‥‥‥(5)

 VI―2 回転パノラマX線撮影装置の回転軸ブレのMTF
 図16に某メーカの装置について,機械的ブレのMTFについて求めたものを示す.方法は断層面上にナイフエッジを固定し,この像を装置の静止した状態と,通常の撮影状態で撮影する.2枚のエッジ像はノンスクリーンフィルムを使用し,同一濃度になるように撮影する.両エッジ像からそれぞれMTFを求め,(5)式にしたがって運動状態すなわち通常の撮影状態のMTFを静止状態のMTFで除して回転軸ブレのMTFとしたものである.この実験で使用した装置はパノラマ撮影のごく初期のもので,現在の装置の回転軸ブレは無視できるまでに改善されている.


図16.回転パノラマX線装置の回転軸ブレのMTF

VII あとがき
 歯科領域のおけるX線撮影の特徴のひとつは,増感紙を使用しないノンスクリーンフィルムを用いる撮影がかなり頻繁(年間1億枚近く)に行われていることである.この方法は口腔内にフィルムを挿入して撮影を行うため,フィルムが唾液でぬれること,増感紙が高価であることなどから,口内法用のカセッテの開発が行われず,さらに焦点被写体間距離が短いことから分解能を上げるため焦点サイズを小さくすることが図られ,ノンスクリーンフィルムの使用のまま今日に至っている.しかし歯科領域のX線撮影は焦点被写体間距離が短いがゆえに皮膚線量が大きくなり,さらにノンスクリーンフィルムの使用から,局所とはいえ大線量が照射されている.このことは被曝軽減の立場から改善されねばならない事柄である.そこで改善にあたりまず解決しなければならないことは,歯科医師がノンスクリーンフィルムで写される高分解能の写真が,診断に本当に必要かどうか,もしそれほど高分解能を必要とするのでなければ,どの程度の情報量の写真が必要か等についての解明である.現状ではこれらの研究はほとんど行われておらず,今後それら一連の研究が本格的に進められるもと考えている.
 パノラマ撮影装置は本文でも述べたが1961年Paateroによって実用化されたもので,日本では1970年代になってようやく歯科診療所に設置されるようになった歯科独自の新しい装置である.今日では耳鼻科領域でも盛んに利用されるようになっている.CTやMRIといった大型撮影法の開発研究は活発に行われているが,歯科診療にはその性格上あまり縁のないものである.しかしパノラマ撮影のように歯科診療に密着した独自の新しいX線撮影法やその他画像診断装置の開発ならびに研究の余地はまだまだあるものと考えている.

 

投稿者 lee : 2005年06月18日 11:05

「権威ある専門学会」 小寺吉衞

(医用画像情報学会雑誌Vol.19 No.3 September 2002より抜粋)

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投稿者 lee : 2005年06月18日 10:28

「医用画像情報学会35年のあゆみ」 金森仁志

(医用画像情報学会雑誌Vol.17 No.1 January 2000より抜粋)





投稿者 lee : 2005年06月18日 10:27

「特色ある学会に」 金森仁志

(医用画像情報学会雑誌Vol.14 No.1 1997より抜粋)

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投稿者 lee : 2005年06月18日 10:00

「学会30年を思う」 内田 勝

(医用画像情報学会雑誌Vol.12 No.1 January 1995より抜粋)

   
学会30年を思う

会長 内田 勝

 学会創立30周年記念が本年10月宮崎の地で行われた。その時の筆者の演題が”学会30年を思う”である。その概要は別刷り”学会30年のあゆみ”にまとめてあるが、ここにはこれを核として30年の歴史を追ってみたい。会員諸氏には”学会30年のあゆみ”の中の演題目録を参考にしながら読んで戴きたい。文中、氏名は敬称略、順不同。
 筆者の半世紀に亙る膨大な日誌の中からRII・MIIの記事を1回、1回と110回繰ってみた。殆ど出席しているが、止む無く欠席した研究会も多い。RII研究会創立当時の詳細は金森総務理事による”RII研究会設立当時の回想”本会誌 7 89 (1990)に明らかであるので省略する。この様に難産といえば難産であったが、立入教授始め医学界の主導者方の理解と援助のお陰で誕生したと今でも感射を忘れない。第1回から第9回までをまとめた”放射線像の研究”第1巻 レスポンス関数 には序として立入・足立・宮川・高橋各教授の賛意と檄励を戴いている。第10回から第19回までを”放射線像の研究”第2巻 解析と評価 にも同様に序として高橋・足立・宮川各教授から更なる努力と激励をいただいている。これを見ても本研究会が医学界からいかに積極的な研究の推進と成果を期待されていたか分かるであろう。第1巻の”まえがき”にはRII創立当初の国内外の状況とShannonによる本来の情報理論の導入の必要性が述べられている。編集後記には医学と工学の境界領域を開拓する困難性を呟いている。第2巻の編集後記にはRIIの賛助会員へのフィードバックと考えられるこの研究成果がサッパリ取り上げられていない事に対する残念さが述べられている。オリジナルな研究を求めるあまり、落ち穂拾いがされてないことにたいする不満である。第23回までを関西で事務局を担当した。この間に前述の”放射線像の研究”第1巻・第2巻の刊行の外に、放射線像の研究白書をRII研究会として日医放学会誌 第29巻 第10号 昭45 に、”STUDIES ON RADIOLOGIC IMAGES”として応用物理 第39巻 第6号 P610 (1970) に発表した。この時期の毎回の研究会記事の編集後記には、その時代、時代を反映した問題意識があらわれているので2~3紹介しておこう。

 研究会記事 編集後記
第14回 昭和42年9月9日
 研究会終了後、当日会員の地方の青年からつぎのような質問を受けた。”この研究会は医学と関係があるのですか”私は十分な説明をしたつもりであったが、帰途新幹線車中で、今別れた青年の納得の行かない怪訝な顔付きを思い浮かべていいようのない不安に苦しめられた。応用物理の巻頭言に”応用物理とは何か”に付いて再三再四論議されているくらいであるから、本会の将来の方向について、いろいろな疑問が起こるのも無理はあるまい。しかし、1人の朴訥な青年を納得させ得なかったということは、はたして自分自身が明らかなのであろうかと内心忸怩たるものがあった。
 今回は研究会記事の外に、”国語問題についての小論”を掲載した。私事で恐れ入るが、医学関係の投稿で無修正掲載に慣れていた筆者は、初めて応物に投稿してみてビックリした。投稿後しばらくしてハネ返ってきた原稿は見るも無残に真っ赤という印象を受けた。新かなづかいによる訂正である。外国文ならいざ知らず日本人が日本語を訂正されるほど恥ずかしいことはない。それこそ人に見せられない。1人ソッと開いては赤インクより赤くなったのではないかと思われる程カッカとくる。JJAPの英文投稿の方がはるかにましときては戦前派には正に脅威である。この小論を一読して感じた事は確かに日本語の混乱である。そのような意味で、大方の読者には必要ないかも知れないが、迷える一匹の子羊の為に敢えて貴重な頁数を割かせていただいた。

第16回 昭和43年2月24日
 今回も熱心な研究発表および討議が行われ、ことに会長の医学からみた質疑応答にはいつものことながら教えられるところ多く有り難かった。われわれがもっとも飢えているのは医学において何が欲せられているのか、医学者はわれわれ理工学者に何を求めているのかという問題点である。放射線像の研究第1巻をご覧戴ければ分かるように、それらの研究はほとんど理工学者の目からみた問題点であるように思える。医学者は理工学者に問題点を提示し、理工学者がそれらについて研究した結果を医学者は臨床面に適用する。この分業が成り立ってはじめて本研究会も創立の意味があろうというものである。現状のように、理工学者が各々の専門分野で勝手に問題点を提起し、その研究結果の発表のし放しではその専門分野で優れた意味をもっていても医学への貢献に関しては、風が吹けば桶屋がもうかる式の寄与はあっても、本質的直接的の寄与をするものではないと思われる。ただし以上は編集子の一私見である。さてそれならば具体的にどうすればよいかと開き直られると編集子も両手を上げざるを得ない。

第17回 昭和43年7月20日
 最近、パスカルのパンセの極く一部分を精読する機会に恵まれた。神の存在について、カケの考え方で無神論者を説得する件である。フエルマ及びホイヘンスと共に確率論の先駆者の一人である彼が確率という言葉を用いないで説明を試みている。私なりの解釈によれば次のようである。“神の存在にカケようではないか。得られるものは無限の生命であり、また失われたとしてもささいなものである。”この結論に到達するまでに確率の考え方を導入していろんな場合について証明している。後世の多くの学者がこの件をつつきまわしている。問題が問題だけに無理からぬとも思うが、宗教家であり、哲学者であり、物理学者、数学者でもあった大天才パスカルである。その彼が少なくとも及びもつかない連中(失礼?)によって、たまさか程度を落とした説明で論理を展開したがために、クソミソにやっつけられているのは見るに忍びない。私でさえどうかと思う説明である。”たった100円の投資であたれば400万円である。カケに損してもしれている。カケないやつはバカだ”というのである。あたる確率から期待値を計算すれば買うバカはいなくなる。彼がこのことを知らなかった筈はないと思う。相手まで程度を落として分かりやすく説明しようとしたが為の誤謬であろう。パスカルも後世でこれほどさわがれるとは思わなかったにちがいない。まして研究論文の種になるなどとは。また、私ごとき門外漢にまで引っ張り出されてパスカルも迷惑なことであろう。地下で苦笑しているに違いない。
 今われわれは教科書を編集しようとしている。われわれはパスカルどころかヒラクラスである。従って1世紀どころか今後4分の1世紀もつかどうかあやしい限りである。しかしながらパスカルの教訓は執筆にあたり肝に銘じておくべきであろう。分かりやすく書くために、たとえば電気の説明に水を、また確率の説明にサイコロをよく用いる。一見分かりやすいよであるが、入門時にこのようなアナロジーで頭に入ると、その枠内でしか物事を考えられないで、あと伸びないし、またとんでもない誤りを犯すことがある。例え、入りにくくてもそのものズバリで解説するべきであろう。また、読者も文章にたとえアナロジーが出て来ても、すぐその中に入りこまないで一段高い所から見るようにして戴ければ、教科書もきっと正しくその目的を達するであろう。

第18回 昭和43年9月28日
 前略。 人々が何らかのeventを批判するとき、その人々の判断はその人々が今までに得て来た情報を基礎としてその上にくみたてられた思考から発想するものであろう。従って、その人の思考形式は過去から今までに得てきた主な情報源の性質に影響されるところが大きい。筆者の年代の者は戦時中の帝国主義教育を受け軍国主義マスコミによって勇んで死地に赴いた。敗戦における呆然自失、そして決心したことは、もう決して二度と騙されないぞということであった。世界情勢においても、国内情勢でも、異なった情報源からの異なった批判勢力の情報を公平に得て判断するべきであろう。もし一つしか得られないときは自分の判断を正しいと確信するべきではない。ソ連・チェコ問題にしても、学長の機動隊学内導入を批判した目でいま一度考えてみるのも面白いだろう。
 われわれは非常に幸福な分野に住んでいる。それは、何処の国に行ってもフーリエ解析は認められるし、数学的な正しさは洋の東西を問わず共通しているということである。一つの仮定されたruleにしたがった発想が認められる世界だからである。これを理性だといった人がいる。 後略。

第19回 昭和43年12月14日
 前略。 ふとパスカルの言葉を思い出す。”人は効き目のあるように戒めその人が間違っていることを示してやりたいと思うならば、その人がどんな方面から事柄を見ているかを観察する必要がある。なぜなら、普通その方面においては事柄は正しいものである。そうしてその正しいことを認めてやり、どの方面において事柄は誤るかをも示してやることが必要である。人はそれで満足する。なぜなら人は自分の誤っていなかったことを知り、また、ただすべての方面を見ることは怠っていたことを知る。ところで人というものは総てを見ないことを遺憾には思わないけれども誤っていたとはいわれたくないものである。多分その訳は、人間は本来総てを見るということはできないものであるからであり、また彼の見るがわにおいては、例えば与えられた感覚そのものは常に真であるように、本来誤る事はないからである。 後略。

第20回 昭和44年2月15日
 前略。 最近、心象的な話をきいた。それはある会社の課長の話である。多年胃病に悩まされX線テレビ装置を設備している大病院で診察を受け、胃カメラも併用して胃癌であると診断された。課長はその後他の大病院2ヶ所でX線テレビによる透視および写真でさらに精密な検査を受け、やはり胃癌であることが確認された。課長は最後にわらをもつかむ思いで、消化器診断では名医と評判の某医院を訪れた。その病院ではX線テレビどころか未だ約10年前のX線装置を設備しているとのことである。2時間半に亙る診察、30枚に及ぶ写真によって診断の結果、神経性の胃炎であることが判明した。課長は喜びのあまり、その写真をもって今まで診察を受けた医師に再診を乞うた。3ヶ所の医師は異口同音に”この診断は正しい。これだけの診断能力に敬服する。”と云ったという。
 この名医が最新のX線テレビ装置で同じ診断が下せたかどうか、意見の別れる所であるが、要は医師が全人格をもって診断するか否かにかかっていることである。決してテレビが悪いのではない。X線に患者と同様にさらされて、真っ暗な中で自分の命を削って診察している環境は全人格の投入を必然的にし、一方放射線に対して安全な明るい隔壁内での便利な作業は冗長度を増すに違いない。
 ここに金原教授の”Esprit cartesien”を見ることができるし、また湯川教授の”人間が独自の自然認識あるいは自己認識の能力を備えているという特質が軽視されると、機械の側だけがとめ度もなく精密化し、巨大化して人間の存在を矮小化してしまうのを防げないだろう。機械が人間よりある点で優位に立つということはあっても、人間には何処まで行っても”すべてを根底から疑う”という貴重な能力が残されているのを誇りとすべきである。”を今更のように認識した。 後略。
 第24回から事務局は関東に移り、竹中・長谷川両委員によって運営された。記憶によれば、関西における赤字を引き継いで、非常なご苦労をおかけした。大変申し訳なく思っている次第である。関西事務局時代のRIIの研究テーマの殆どは画像の鮮鋭度と粒状性の評価を中心に発展してきたが、その後はその反動といおうか、次ぎの新しいテーマを見つけるべく雑多なテーマの試行が続く。ROC・II・CT・MRI・CR・エントロピー・自動診断など。通巻29号から誌名を研究会記事から放射線像研究に変更した。関東事務局時代の主な編集後記を参考に跡をたどってみる。

放射線像研究編集後記
VOL.3.No2.(通巻35号)1973(昭48)・5
 前略。研究発表も6件あって盛会でした。題目を見ますと2~3年前迄多かったMTFは昨年からは殆ど無く、画像雑音に関するものがここ1~2年の間にふえ、また計算機を用いた何等かの処理に関するものが増えているのが目につきます。後略。
VOL.4.No3.(通巻40号)1974(昭49)・9
 前略。今回のプログラムにはMTF関係のものがなく、5年前に幹事を引き受けた当時はあらかたMTF関係の演題であったこととくらべ、一抹の淋しさ、今昔の感に打たれます。ある意味ではRII設立当時の使命は終わったことを示すわけです。一方画像処理関係の講演の多い程参会者が多く討論が活発に行われる近況で、特別講演も当分このような傾向でお願いするつもりでおります。放射線医学と工学の接点として、会の今後についてご意見をお寄せ下さい。
VOL.4.No.4.(通巻41号)1974(昭49)・12
 前略。RII研究会をシカゴで開催する件については、高橋会長の司会で全参会者で討論をいたし、時期、場所を設定して会員各位に参加、演題の希望の有無をアンケートすることといたしました。アンケートは1月実施し発送179(米国在住者除く)回収69、内訳、参加7、予定6、未定4(予定、未定は旅費、他の学会との時期関係などの理由)不参加52、演題予定8件でした。これをロマン教授に伝え、先方の判断にまつことといたしました。 後略。
VOL.5.No.1.(通巻42号)1975(昭50)・3
 前略。RII研究会も11年を終わり、雑誌を並べてみると演題の変化に今昔を感じます。第1回研究会の39年2月と云えばX線テレビは一部の大病院のみに使われ、RIや超音波は殆ど実用になっていなかったと思われます。研究会の往復は市内電車、駅ではSLが待っていました。工学ではICは未開発、レーザーも未実用、計算機は今日のミニコン程度のものが大型ともてはやされた時代でした。こうした背景の移り変わりに従い、総合学問である医用画像工学も中身が変わり、我々の関心もRIIの使命も移って行くものと思われます。 後略。
VOL.7.No.3.(通巻52号)1977(昭52)・9
 前略。午後の研究発表には今回はお申し込みが特に少なく、大部分の講演は演題締め切り後に幹事から無理に発表をお願いしたものです。発表者にはご迷惑かとも思いますが、そのような事情だけになまなましい話題が多く会は活発に運ばれました。もともと本会はインフォーマルな相談会として出発し、実験上の困った点などを気軽に相談し合う会でした。晋段演題に疎遠な方のご発表を期待しております。
VOL.10.No.4.(通巻65号)1980(昭55)・11
 前略。当会も誕生以来18年目となります。この間診断装置もX線から各種放射線、超音波、NMR等と間口を広げました。当会も会名を変えて時代に対応したら……との声もあります。後略。
VOL.11.No.3.(通巻68号)1981(昭56)・8
 前略。当会も創立18年を迎え、正会員340名で漸増の傾向にあり、この種の研究会としては異例の息の長い集団となっています。これも一重に創設の方々のご方針・会員の方々のご協力の賜物です。最近は他のグループなどから合併してはどうかなどの話も聞かれるようになりました。後略。
 第75回から再び事務局は関西に移った。
第76回から高橋会長の後を継いで内田が会長となった。研究テーマは続いてDR・X線スペクトル・フラッシュX線装置・コンピューター支援診新等、またファジィ推論なども顔を出し超音波画像、歯科領域にまでその間口を広めた。そろそろ内部的に分化統合の時期が来ているのかも知れない。第79回から学会に名称を変更した。続いて巻頭言・編集後記などで歴史を繙く。

放射線像研究
VOL.13.No.3.(通巻76号)1983(昭58)・11
(巻頭言)分化と統合
 本研究会は来年3月で創立満20年を迎えようとしている。早いものだとつくづく思う。しかしよくふた昔も続いたものである。途中で何度も演題切れの度に、もうこの研究会の使命は終わったのではないか、解消して新しく出発しなおすべきではないかと自問自答し提案もしたものである。最近に至っては、他の同種の研究団体から合同新発足の誘いかけもあったが、これも辞退して相変わらずのRIIはgoing my wayである。
 何がこの500名足らずの研究団体をこのように維持させているのか、考えることしきりの昨今である。会の維持については、歴代の役員諸氏の努力もさることながら、賛助会員の奉仕的援助によるところが大である。この場をかりて厚くお礼を申し上げると共に今後も変わらない賛助をお願いする次第である。
 他方、本質的な研究の維持については、会発足当初から幾多の変遷を経て現在に至っているものである。X線管焦点のフーリエ解析が会誕生の発端となったことはそれこそ二昔前のことであるが、この領域は増感紙・フィルムなどの光学からの延長として発展して来た分野と共に一度に開花したのである。このように華やかな時代は精々10年ほどであったろうか、その後は放射線関係の演題は激減し毎回の発表演題にこと欠く有様、その後の役員諸氏の努力は見るも気の毒であったと記憶している。従ってその後の演題も、本来の目的である放射線を手段とする像情報からはなれて、周辺の機器とか像が多くならざるを得ない状態となってきている。それも役員が毎回かけずりまわって寄せ集め、会の面目を保ってきた有様である。この様な現状をふまえると、それなら前にも再々考えたようにこの研究会は解散した方がいいのではないかという思案が出て来る。しかしながら、それはとんでもない考え違いであることに今更のように気が付くのである。
 そもそも.RII研究会は当初、放射線による像を情報理論によって解析することを目的として発足した。従って、画像だけでなく、線量像についての情報理論による解析もその主な領域として存在していたのである。ところが、科学は限りなく分化と統合をくりかえして発展するという例にもれず、測定関係はその影を潜め、画像の解析がだんだん主となってきた。また、その画像も現在ではNMRに代表されるように、放射線を手段とするという制限を解放しつつある。すなわち、像は画像を哲学として共有する各分野がその発表の場を求めている現状である。以上をまとめるとつぎの2点になると考えられる。
 その第1は、医療総合画像診断の言葉に見られるように、現在の画像は多様化してきているということである。放射線だけが孤塁を守るときではない。正に総合画像情報としてとらえる時代である。研究団体として医療画像を旗印にかかげるならば・その中に放射線分科会、断層分化会、超音波分科会、……等の分科会がそれぞれの専門領域として権威をもつべきであろう。すなわちその研究団体は、画像を専門として共通する、手段の異なる分科会から構成されることが望ましい。
 その第2は、医療画像情報に関する論文の審査をどこの学会が主としてとり上げ権威をもって行ってくれるかである。筆者を含むまわりの人々は自己の論文の権威のために学会誌を選ぶが、権威ある学会で主としてとりあげ審査してくれるところはない。精々"その他"の項で扱われるくらいである。したがってそのレフリーも専門の権威者であるとは限らない。それはレフリーからのレスポンスをみて"おぬしできるのう"とは考えられないからである。ここまで考えれば"それならRIIが一肌ぬいで男になろうじゃないか"というところであろう。そのためにはこのままでは無理である。やはり学会形式をとり権威あるレフリー制をしいて、小粒でもピリッとからい存在となる必要がある。
 まだ外にもいろいろ気付くことがあるが、この2点だけでもこの際RIIが脱皮して新しく生まれ変わることが、RII研究会をこれまで続けてきたことに対するわれわれの一つの責めであると痛感するものである。勿論、学会に対する欠点もある。会費が高くなる、いままでのフリートーキングのようなリラックスした雰囲気が失われる、会誌に気楽に掲載されなくなる等々。またこの逆が研究会の利点でもあるのだが。どちらをとるか、創立20年のこのときに真剣に考えていただきたいし、考えたいものである。
いま筆者の机の上に日本学術会議からとり寄せた学協会登録申請書が置いてある。資格は総てととのっている。署名捺印するかどうか、これは会員諸氏にきめていただくことである。

本学会誌
VOL.1.No.1.(通巻78号)1984(昭59)・9
(巻頭言)権威ある専門学会
 常任委員会・委員会・総会の議を経て今年度から放射線イメージ・インフォーメーション研究会(RII)は医用画像情報学会に衣替えした。"学会になっておめでとう"と何人かの人々から喜ばれた。そのお祝いの言葉には心から嬉しく感謝する一方、冷水をあびせられる思いもするのである。それは顧問立入先生がよくいっておられた"めでたいか、めでたくないかはそれが終わる時に分かるのだよ"という言葉である。"終わりよければすべてよし"という言葉に一脈相通ずるものがあると思うが、その通りである。"おめでとう"といわれたわれわれは多大の債務を背負わされたような気持である。
 研究の歴史も長く、学問の基礎もでき、将来の展望も開けているこの学術団体が万が一にも衰微するようなことがあっては大変である。本学術団体は当初から機能的な色彩の一切ない純学問的な団体として進んできた。学術団体としては当然そうあるべきであって、それが20年の歴史を示しているのである。
しかし、いままでいつも執行部を脅かして来た大きなネックは経済的な問題であった。経済力の豊かな職能的学術団体と異なり、学問の同好の士というつながりだけでは、その経済力は貧弱であってもやむを得ないのである。しかもこの貧困な経済的基盤の上に立って、この学会はRII研究会を引き継いで誕生した。前途多難であると覚悟せねばならない。
 この困難な中にあっても、年3~4回の会誌は珠玉のような論文で紙面を満たし、充実した学問的記事で余白を埋めたいと考えている。たとえいまは年発行回数が少なくても、頁数が少なくても、そのうちにはちきれんばかりの頁数と月刊でも足りないほどの時代が来ることを夢みている。いまは超ミニ学会であるが、将来は世界的にも認められた権威ある専門学会として発展したいと願っているわれわれなのである。 "自然は急変を嫌う"という。RII研究会の内容は徐々に徐々にと医用画像情報学会へ変身する筈である。常務理事会・理事会などで本学会の将来の在り方を真剣に検討しながら、本学会の目的に徐々に収束していきたいと考えている。
 学会員諸氏の絶大なご協力とご後援をお願いする次第である。

(編集後記)
 前略。表紙について。周知のとおり,最初の医用放射線画像はRontgen(1895)が夫人の手を制動放射X線で撮影したものである。制動放射を前期量子論で説明したKramers(1923)の歴史的な論文に従って、表紙の図案を作ってみた。表紙の円と曲線は、電子が原子核の近傍を通るときに減速される様子を図案化したものである。 後略。

本学会誌
VOL.2. No.1.(通巻79号) 1985(昭60)・1
(巻頭言)  学会発足にあたって     顧問 立入 弘

 昭和39年3月21日に、大阪大学医学部付属病院の小じんまりした会議室で31人の人々が集まって、ささやかな研究集会が催されました。工学、理学、医学、放射線技術などの、年齢や階層を問わない異なった領域からの人達でした。こうした会合のはじめにはいつもみられるように、研究の意気に燃えるもの、”イメージ・インフォーメーション”というその当時としては耳に新しかった言葉に戸惑う人、あるいは新進の研究者の中に入って学識の若返りを願う年配者らが、意欲と好奇心をもって基礎的な真理の探求を志しました。その日の報告は、”X線撮影系の光学的考察”・”レンズを含んだ像伝達系の一評価法”・”最大情報量撮影”・”γ線スペクトルの超分解”などでありました。画像情報ではあっても、その中心が臨床医学のX線写真におかれていたのがわかります。
 新しい医用画像情報学会雑誌の第1巻、第1号では”放射線領域における濃度-露光量変換曲線とミクロ黒度特性”・”画像の系列依存性による評価”・”定量性を保有したSPECT用の新しいデータ採集法”となっています。こうしてみると、今回”医用”画像情報学会と”改称”されたのは頷かれます。初めの精神が今もなお受け継がれているからであり、名前は研究会でも学会でも、本来の主旨から云うと一見ネクタイを締めた位のちがいです。しかしネクタイのあるなしは品格を整えるだけではなくて、心構えも一新されるようになりましょう。問題は会員の精進と研究の成果にあるので、第1号巻頭の内田会長の言葉にもその覚悟のほどが窺われて、うれしい限りであります。
  ”遠くして光あるものは飾りなり。近づきていよいよ明らかなるは学なり”という言葉があります。会員の皆さんのご健闘と内田会長とそのスタッフの強く正しい指導力とを期待し、徐々ではあっても確実な一歩一歩で、地味な本学会の存在価値を十二分に発揮されるように念願します。

本学会誌
VOL.2. No.2.(通巻80) 1985(昭60)・5
 顧問 高橋信次先生のご逝去を悼む
 弔詞-”大きな星”

 高橋先生が亡くなった。いまこのように追悼のことばを書いていると、在りし日の先生のことがつぎつぎと思い出されて来る。それも浜松医大副学長、愛知がんセンター総長として功成り名遂げられた時代でなく、一教授でRII研究会の会長をしておられた若き時代のことである。私は一度先生からコッピドク叱られたことがある。RIIの常任委員会を招集して置きながら、その本人が大遅刻をしたときのことである。重々私が悪いので一言の弁解の言葉もない。会長である先生は他の人々の気持をおさめるために、ひどく面責されたのである。なかなかできることではない。いまだにこの教訓は身にしみて肝に銘じている。
 その頃RII研究会にはよく出席された。先生は医学者であるから、われわれ理工学者の述語もその論理も難解であったに違いないと思うのに、演題の殆どに質問をされた。それも東北弁のタドタドしい特徴ある話振りは耳にこびりついて離れない。中には見当違いのこともあった。しかし岡目八目といっては誠に失礼であるが、すばらしい示唆に富んだ意見が泉のように湧き出てくるさまは、正に驚きに値した。やはり、先生の画像に対する確固とした哲学が然らしめるところであったのだろうといまになって思うのである。
 私どもにとって偉大な人々がつぎからつぎへと欠けて行く。今度も大きな星が落ちた。人間の持って生まれた宿命とは知りながらも悲しみに耐えない。後に続く者は先生の遺徳を忍び、遺産を受け継いで、1ミリでもいいピラミッドを高めて行きたいと心に期するものがある。
 先生、RII研究会はMII学会になりました。みんなできっと立派な学会にしてみせます。先生安んじて眠って下さい。さようなら。  合掌。

本学会誌
VOL.6. No.2.(通巻92) 1989(平1)・5
 (巻頭言)  創立25周年に思う

 総務理事から今年は創立25周年ですと聞かされ、ありふれた表現ですが、正に感無量といったところでした。同じことを立入先生に申し上げたら”よく続きましたね”と感慨無量のご様子でした。筆者も全く同じ心境でよく続いたものだと思います。今でも決して楽な運営だとは思われませんが、今まで何度も何度もピンチを切り抜け現在に至っているのは、正に会員諸氏のご理解とご援助の賜物であります。紙上を借りて厚く感謝申し上げます。
 この際に25年前の記録を見るのもと思い、放射線像の研究第1巻・第2巻を開いてみました。自画自賛になりますが、この頃皆-懐かしい人ばかり-本当によく勉強しました。よくこれだけ出来たと、やはり若さの故に可能だったのでしょう。25年の歴史はその当時の人々の上にそれぞれ異なった人生を歩ませました。いまでも厚い交遊の続いている人もあるし、なかなかお目にかかれない人もいます。しかし、殆どの方に共通していることは、それぞれの職場で元気に活躍され指導的な立場におられるということです。
 世は正に情報化社会爛熟の真っ只中です。何も彼も情報と名が付けば何かナウイと受けとられる時代です。当たらない代名詞のような天気予報ですら天気情報と衣替えして、当たらないのが不思議でないような気がするから不思議です。わが医用画像情報学会も名称は最尖端のおもむきがあります。しかし内容は必ずしも”医用画像に情報理論を導入する”ばかりではありません。これは”放射線イメージ・インフォーメーション研究会”からの脱皮であってみれば、当分は古い表皮がいくらか残っていてもそれは当然といえるでしょう。長い年月かけてこの名称にふさわしい内容に徐々に改変が進むことを期待するものです。わが学会の理想としてこの目標を高く掲げ、次の25年また次の25年と続けて行きたいものです。
 ”物質とエネルギー以外はすべて情報である”という考え方があります。狭い情報でなく物質とエネルギーを支配する情報として情報理論を考えるならば、医用画像の中に広汎なテーマが対象として見出されるでしょう。”学会の名称にふさわしい論文を”を目標にかかげて次の25年、少しでも進歩したいと存じます。この創立25周年に際し、会員諸氏と共に過去を振り返り、現在を見つめ、将来に期待したいと存じます。

(編集後記)
 光陰矢のごとく過ぎて、RII研究会が発足してから25周年を迎えることになりました。誠にご同慶の至りであります。発足当時は、1年か2年で目的とする研究(主として空間周波数解析)は終わるだろうと云われた先生も居られましたが、とんでもないことで、新しい不可解な問題がいくらでも出て来ています。MTF,ウィナースペクトルの測定ですら、まだ確立されたとは言えません。情報理論の適用や、画質の総合評価に至っては、まだまだこれからです。一方では、会の名称を変更したように、創立当時の目的から脱皮せねばなりません。 後略。
 最近の研究発表のテーマから考えて、筆者なりの希望を交えた将来の展望を述べてみたい。それにしても何時も思い起こされるのは、筆者が約20年前岐大に在籍していた時に医学部のドクターから聞いた言葉である。
 ”MTF・ウィーナースペクトルなどその他の物理条件がいかによくても、私の望む陰影が出てないフイルムは私にとっては意味がない。逆にいかにそれらの物理条件が悪くても、私の欲するものが出ているフイルムは最高である。”当時X線造影写真で5ミリの早期胃癌を発見した名医として喧伝された人物の言葉である。濃度が適当でコントラスト・鮮鋭度・粒状性などその他の評価条件がベストであるような画像を求めていた筆者にとって晴天の霹靂ともいえる言葉であった。当然の言葉であるだけにそれ以来、これは頭から離れず、事ある毎に反省の材料となっている。
 名人と云えば放射線技師についても、むかし名人芸といわれるX線技師が多くいた。当時徒弟制度であったため、これらの名人芸にはいろいろな弊害が伴った。そこでこれら名人芸をなくし、学べば誰でも一通りの技術ができるものとするために学校制度ができた。そして今では4年制大学にまで学問として発展したのである。放射線撮影に関して云えば学校教育を受ければ誰でも3点位の写真はとり得るだろうけれども、名医の望む5点の写真をとることができるだろうか、疑問である。理工学者が最も知りたいのは放射線被写体の物理定数は何かということである。ドクターが求めている物理定数は何か。この物理定数が定まらなければ、すなわち、あるドクターは判別がつけばいい、ある者は関心領域がリニアーに表れておればいい、形が分かればいい、その他吸収係数・物性・密度・厚さ・体積といろいろである。これがファジィである限り、これを求める技術者はドクターに対するにファジィで望まざるを得ない。50年前のドクターの好みに振り回されていた時代と異なり、現代ではドクターの根拠あるファジィな要求に対し、立派に対応できる技術がある。名医の一つの特性とも考えられる診断のファジィ性を生かすためにも、技術者は従来のデカルト的な画一性・客観性を排し、パスカル的な個別性・主観性を重視してドクターのファジィ性に対応した技術をもって応えるべきである。
 ここに最近一連のコンピューター支援診断の台頭がある。機器の開発に伴って研究テーマは変遷してきている。いままで研究は基礎の問題が主で医学診断に必要な画質を求めるためのもので診断を云々するものではない。コンピューターを情報の手段と考えるならば、、コンピューター支援診断は本学会のメインテーマとも考えられる。しかし、診断支援・自動検出にとどまっている間は安心だが、自動診断へ進むとなると問題である。それは人間の神秘性をコンピューターで冒涜しようとすることだからである。ここに厳にハッキリと線を引いて考える必要がある。コンピューター支援診断には医師の参加が必須である。この点からもRIIの当初からの念願であるドクターの主導が積極的に期待できる。これで医師・技師・理工学者の3者協力のバランスのとれた研究体制がこのテーマに対してとり得ると考えられるからである。聴診器医師の時代には名医がいたが、コンピューター医師の現代に名医はいるのだろうかの問いに対して筆者は”今後、コンピューター支援診断の上に立って名医が誕生する時代が来るのではないだろうか”と答えたい。
 他方、RII当初から続いている画像評価の手法の開発は、新しい医療用装置・関連用品の開発される度に有力な手法として活躍している。更に今後も益々開拓が進められねばならぬ分野である。本学会は今までの研究の歴史を踏まえ、医学に貢献するという本来の目的をしっかり見定めて、将来へ向け進みたいと念願するものである。将来展望は筆者なりのもので決して本学会の将来を拘束するものではない。しかし、立入顧問の言葉にも窺われるように、この30年という節目に本学会の原点に帰って将来を真剣に考えて戴きたいと思うや切なるものがある。

 

投稿者 lee : 2005年06月18日 09:47

「RII研究会設立当時の回想」 金森仁志

「RII研究会設立当時の回想」 金森仁志
(医用画像情報学会雑誌Vol.7 No.2 May 1990より抜粋)

投稿者 lee : 2005年06月18日 09:36

「権威ある専門学会」 内田 勝

(医用画像情報学会雑誌Vol.1 No.1 1984より抜粋)

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投稿者 lee : 2005年06月15日 09:12